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のと だらぼち

印刷用ページを表示する 掲載日:2000年2月28日

福井県立大学教授 岡崎 昌之 (第2305号・平成12年2月28日)

東京・銀座の一角に「のとだらぼち」という、一風変わった居酒屋が、ビルの地下に店開きした。“だらぼち”とは能登の方言で「要領が悪く、鈍で、それでも真っ正直に生き抜こうとする人のこと」(「のとだらぼち」開店挨拶文から)だそうだ。能登半島を正しく紹介しようというのが店のコンセプトで、株式会社能登百生が経営する。

酒、魚はもちろん、一部の野菜を除いて、塩、醤油、味噌、米、豆腐等々、すべてきちんと能登で作られたものをお客に出す店だ。能登の海が時化れば、当然、魚はでないということになる。靴を脱いで上がる板張りの店内は、簡素な作りで、それほど広くはないが、毎晩、都心の勤め人たちで賑わっている。こだわりは食材だけではない。輪島塗りの椀に箸、珠洲焼きの皿にビールマグ、店内に使われている木材は奥能登のアテの木という徹底振りである。銀座という一等地ではあるが、手軽に能登の味を楽しんでもらおうと、酒の肴は300円からと良心的でもある。

能登半島では2003年に能登空港の開港が予定されている。開港すれば東京から直接能登を訪れる人たちが増えるだろう。一度きりのブームでなく、能登ファンをどう定着させるか。そのためには本当の能登を、東京のど真ん中できちんと紹介する必要があると考えたのが、能登の門前町で本物の豆腐づくりとそば打ちにこだわる星野正光さんである。

(株)能登百生は、そんな星野さんの真摯な呼びかけに応じて26人が出資して出来た。七尾市から珠洲市までのおよそ100キロの地域に点在する様々な生業を営む26人が、10万円以上300万円以下という制限で、お金を出し合い、3千万円の資金ができた。米づくり農家、日本酒の蔵元、漆器屋、水産物屋など、21世紀の日本人の田舎、能登半島の風土を守って生業を営む多様な人たちである。

星野さんたちの夢はまだまだ広がる。能登の“語り部”を育てようというのもひとつだ。これら生業を営む人たち、能登に誇りを持って生きている人たちに、それぞれの能登を語ってもらう。そんな語り部と能登を訪れた人たちの交流が出来れば、という期待が広がっている。