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ユビキタスとディバイト

印刷用ページを表示する 掲載日:2004年2月16日

NHK国際放送局長 今井 義典(第2469号・平成16年2月16日)

昨年12月スイス、ジュネーブの国際見本市会場の一角に、遠く日本から運ばれた一本の大根があった。

その大根に小さな読み取り装置をかざすと、英語で「この大根は無農薬栽培で、今が食べ頃です」としゃべり出す。よく見ると大根に貼ってあるシールの下に、米粒ほどのコンピューター「ICタグ」が組み込まれていて、それがデータを蓄えていたのだ。

国連が世界に呼びかけて開いた「世界情報社会サミット」の技術展示での1コマだ。この技術が普及すれば、例えばBSEが発生しても、たちどころに生産者を突き止めることができる。「どこでもコンピューター」をユビキタスというのだそうだ。今、日本が世界の先頭をきってこの技術の実用化に取り組んでいる。

同じ会場には対照的な展示があった。例えばラオスの展示ブースの自転車、ペダルを漕ぐと電気が発生、バッテリーを充電する。バッテリーの先にはパソコンがあって、1分漕ぐとパソコンが5分使えるという。ラオスの山の中で、インターネットに繋がることができた村が次々に生まれている。

手巻きラジオは数年前イギリス人が開発したものだが、スイス人も負けてはいない。スイス政府が展示していた石油ランプは、ガラスのホヤのてっぺんに回転式の小さなファンがついていた。電気のないところでランプを灯すと、ホヤの中の上昇気流がファンを回す。そこで発生した電気で、石油ランプの台の中に取り付けられている携帯ラジオが鳴り出すという仕掛けだ。

60億人を超える世界で、インターネット人口は約7億人、その一方で、1日100円以下でかろうじて生き延びている人が12億人、電気も電話もない人も少なくない。情報へのアクセスを持つものと持たざるものの格差、デジタルディバイドは広がるばかりだ。

先進国の我々は開発の手を休めることはできないが、ディバイドの拡大に手を拱いていてはいけない。どうやったら草の根から貢献できるか、また世界を巻き込んで大きなシステムが作れるか、本気で行動を起こさねばならない。