総合地球環境学研究所プログラムディレクター 荘林 幹太郎(第3366号 令和8年7月13日)
6月10日、「新たな水田政策(コメの中長期対策)の基本的考え方・仕組み」が関係閣僚会議で了承された。今回の水田政策見直しの本質は、単なる制度変更にとどまらず、限られた農政予算を何に重点的に配分するのかという問題でもある。
基本的考え方では、水田活用の直接支払と、日本型直接支払(中山間地域等直接支払、多面的機能支払、環境保全型農業直接支払)の見直しが中心となっている。これらは農業生産のみならず、農地保全や地域維持、環境保全を支える重要な政策であり、とりわけ町村にとって関心の高い施策である。
令和8年度予算では、水田活用の直接支払が2752億円、日本型直接支払は国費ベースで約813億円である。ただし、日本型直接支払は地方負担を含めると事業費ベースで約1600億円に達する。今回の見直しが、相当規模の予算を対象とした議論であることがわかる。
基本的考え方では具体的な単価や予算規模は今後の検討事項とされている。筆者は、例えば平場と中山間地域との生産条件格差が拡大している可能性を踏まえると、中山間地域等直接支払については増額も含めた検討が必要だと考える。また、環境保全型農業直接支払についても、国際的に見れば我が国の支援水準は低く、拡充の余地がある。
一方で、農政予算は国全体の経済力という制約の下で考えざるを得ない。そこで参考になるのが、GDPに対する農業関連財政支出の割合である。OECDの推計によれば、2022~2024年平均で、日本は0.37%、OECD平均は0.41%であり、EUは0.49%、スイスは0.55%となっている。ただし、日本では地方自治体負担分の一部が十分反映されていないことや、関税による価格支持が多いことには留意が必要である。
それでも、「日本農業は過度に保護されている」との一般的なイメージほど、日本の財政支援が突出しているわけではない。食料安全保障の強化や気候変動等への対応への期待が高まる中で、農政予算の一定の増額について議論する余地はあるだろう。
と同時に、予算総額だけではなく配分の優先順位にも着目する必要がある。仮に水田政策関連予算を増額する場合であっても、農政全体の中でどの施策を重点化するのかという視点が欠かせない。例えば、灌漑施設の維持管理や更新に対する農家負担のあり方についても検討の余地があると考える。
水田政策の見直しは、食料安全保障、地域維持、多面的機能の保全という多様な政策目的をどのようにバランスさせるかを問い直す機会でもある。農業と農村の持続可能性を高める観点から、農政予算全体のあり方を含めた包括的な議論が求められている。