総合地球環境学研究所プログラムディレクター 荘林 幹太郎(第3353号 令和8年3月16日)
農山村活性化のために官学共同での取組は多くの地域で実践され、さまざまな成果が報告されている。農山村地域の課題の多くはそれぞれの地域の経済社会情勢や自然条件などの「文脈」に依存することから、地域にある大学や研究機関が中核的な役割を果たしているケースが多い。
一方で、全国的な視点での農業農村の活性化のためには主として農水省の研究開発予算が、食料農業農村基本計画と連動しながら、重要な役割を果たしている。OECD(経済協力開発機構)が加盟国を対象に計測している農業部門支持政策予算のうち、個別農家ではなく農業部門全体に対する政策予算指標として「GSSE(一般サービス支持推計額)」がある。この数値の各国の農業生産額に対する比率で、その水準の国際比較をすることが一般的であり、我が国は2022年から20
24年の平均値が唯一12%を超えており、2番目のスイスの9%弱と比しても極めて大きい。GSSEは農業インフラ整備保全、研究開発普及、検査・監督等に区分されており、日本のGSSEが加盟国で最大なのは、農業インフラの整備保全の数値が農業生産額比率10・5%とやはり他国を圧倒しているためでもある。しかしながら、研究開発普及についても我が国の公的負担は小さいわけではない。農業生産額比率1・3%は、OECD諸国の平均値1・1%を上回っており、スイス、ノルウェー、韓国、EUに次ぐ水準となっている。
国の研究開発投資はスマート農業導入、新品種開発、さらには環境負荷軽減対策に対しての相当程度の重点化が進んでいる。日本農業が直面する国際環境の変化や気候危機、さらには厳しい財政状況を考えると妥当な方針だろう。一方で、とくに中山間地域の農業継続のための最大の課題ともいえる、農業用排水路の維持管理や畦畔の草刈りなどに対する研究開発投資の必要性は必ずしも、たとえば農水省によって毎年策定される「農林水産研究イノーベーション戦略」でも、強調されているわけではない。自動草刈り機などは徐々に導入が進んでいるが、急傾斜地における草刈りや水路の泥上げなどに対するAIロボティックスも含めた新技術の導入に研究開発が果たすべき潜在的な役割を考えると、その水準を改善する余地は大きいと考える。
そのような中で、中山間の喫緊の課題に対応するための研究開発への投資をより積極的に拡大するために必要なことを2点指摘したい。一つには、末端の用排水路の泥上げや草刈りなどに対する維持管理労力の軽減が農業生産性の向上に与える効果や、それに伴う多面的機能の改善効果が統計数値に表現されにくいことから、研究投資の必要性を説得的に示すことが困難だという構造的な問題があることである。この問題に対しては、「農業生産性」をより幅広くとらえる必要があり、たとえば現在OECDで検討が進んでいる、農業がもたらす正負の外部性を包含した「持続的農業生産性」の向上を計測することが重要となる。もう一つは、多面的機能支払交付金の一部を、用排水路の泥上げや草刈りに特化した技術開発に短期集中的に活用できないかということである。同交付金は自治体負担も含めて毎年約1000億円を交付している。たとえばこれの5%を研究開発に3年間充当するだけで1
50億円の予算を確保できる。あるいはそのような方式に合意する市町村が連合でそのような活用を農水省に対して提案することも検討に値するのではないだろうか。