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しなやかでしたたかな地域農政を

印刷用ページを表示する 掲載日:2026年2月2日更新

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3347号 令和8年2月2日)

 昨年11月末、2025年農林業センサスの概要が公表された。基幹的農業従事者数が約102万人と、5年前の25%に当たる約34万人減少となった。この40年間で過去最大の減少率である。

 農村現場で「耕しきれない農地」が増え続けている現状を目の当たりにしているものの、数値化されると改めて、加速する担い手減少のスピードを噛みしめざるを得ない。

 一方で、経営面積が20‌haを超える大規模な農業経営体が経営する農地面積が初めて全体の5割を超え、既存の担い手の規模拡大が進んでいることも示され、メディアの一部は「構造転換が進んでいる」と好意的ともとれる形で報じられている。

 しかし、経営耕地面積の減少にはブレーキがかかっていないので、正確には、戦後自作農世代の離農が加速し、既存の担い手への農地集積と規模拡大が進んでいるものの、既存の担い手だけでは農地を引き受けきれず、否応なく「構造転換」と同時に生産基盤の「縮小」が進んでいる現実を、このデータは示していると考えたほうがいい。

 問題は、この現状を踏まえて地域はどんなビジョンを描くかである。昨年4月に公表された国の「食料・農業・農村基本計画」では、2030年までを「構造転換重点期間」と位置づけ、さらなる担い手への農地集積と圃場の大区画化、スマート農業の導入、“官民共創”として農村政策での企業との連携を推進する方針が示されている。

 その上で掲げられた多数の目標とKPIには、まるでスローガンかと思えるような数字が並んでいる。「もう待ったなしの状況」という危機感の表れかもしれないが、「担い手の生産量を1.8倍に拡大」というKPIなどには、なんだか遠い世界の話では…と空を仰いでしまった。それは私だけではないようで、少なからぬ農業者や自治体関係者から同様の声を聞いている。

 「流動化すればするほど家が減る」――1987年、過疎化が進行した島根県津和野町の山間部で全国初の集落営農法人「おくがの村」を立ち上げた糸賀盛人氏の言葉だ。

 もちろん大区画化と担い手への農地集積がメリットになる地域もあるだろうが、農業を「産業」ではなく「地域」という視点で考えれば、担い手へのさらなる農地集積は、とくに他産業による雇用機会のない地域では離農者の離村と地域のさらなる衰退を招きかねない。

 すでにある程度の規模拡大を済ませた農業経営者からも、利益率と経営ストレスを考えると、これ以上の規模拡大は望まないと、経営上の視点から国の政策から距離を置こうとする姿勢も見受けられる。

 今後、多くの自治体にとって、「産業」と「地域」のバランスを考えて国の農政とどう向き合うかがますます重要になるのではないか。まずは地域の実情を把握し、地域に適したビジョンを描き、その上で、農水省だけでなく他省庁の政策にもアンテナを張りながら、地域にメリットになる政策は導入し、付き合えない政策は上手にスルーする、そんな主体性が必要ではないかと思う。

 政策あれば対策あり。国の農政と地域農政は、一致しない部分があって当たり前。しなやかでしたたかな姿勢で戦略を考えたい。