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専門的知見をまちづくりに生かす

印刷用ページを表示する 掲載日:2026年1月12日更新

事業構想大学院大学教授 重藤 さわ子(第3345号 令和8年1月12日)

 宮城県南三陸町で、2025年11月8日に、200人の参加者を得て「第4回いのちめぐるまち学会」が大々的に開催された(写真)。この学会は、南三陸で専門家(研究者含む)と市民が知見を共有し「いのちめぐるまちづくり」に共に取り組むための、地域による地域のための学会である。第4回目である2025年度は、震災復興の過程で固い絆で結ばれた台湾からゲストも迎え、台湾語、日本語、英語が飛び交うグローバルな学会となった。

 専門的知見をまちづくりに生かす取組は、震災前にさかのぼる。南三陸町がすごいのは、2000年前後には研究者の知見を「まちづくり」に生かすためにと、町立自然環境活用センター(ネイチャーセンター)に町の予算で任期付研究員(ポスドク)を直接雇用する仕組みを作ったことである。そこから親潮と黒潮が交わる豊かな漁場である志津川湾をフィールドとする生物・生態学の研究と教育の取組が始まり、震災前には教育旅行の受け入れなどで、年間2000人を超える関係人口を誇っていた。

 このような関係人口が、震災後にも大きな貢献を果たすこととなる。震災で、ネイチャーセンターで保全・記録していた志津川湾に生息する動植物の膨大な標本がすべて流出した。震災後の標本回収作業には限界があったが、最終的にはそれまで築いてきた地域外の協力もあり、2016年までに総点数はほぼ震災前の水準まで復旧した。それら標本数も大きな後押しになり、志津川湾は2018年10月にラムサール条約湿地に登録されている。

 また、震災後に掲げたバイオマス産業都市構想では、森林のFSC認証、カキ養殖でのASC認証、生ごみ分別によるメタン発酵・液肥の農地散布の取組などの計画を、地域住民や地域内外の事業者、専門家の参加・協力を得て次々と実現した。さらに、アマモ場再生やイヌワシ生息環境再生プロジェクトなど、ネイチャーポジティブな新たな取組にもつながっている。

 専門的知見を生かしたまちづくりが、さらにまちに専門家をよびこみ、その知見がまたまちづくりに生かされていく、という意味でも「めぐる」まちである。