明治大学農学部教授 小田切 徳美(第3343号 令和7年12月15日)
「ふるさと住民登録」が動き始めている。閣議決定された補正予算案(11月28日)には関連する事業が含まれており、来年度には、国民が住所地以外の特定の自治体に「ふるさと住民」として登録する仕組みの運用が開始される。
このような「ふるさと住民」の自治体における導入は意外と古い。例えば、福島県三島町は、既に半世紀以上前の1974年から、「特別村民制度」を始めていた。また、地方自治関係者のなかには、同種の制度を提言する人々が断続的ながら登場している。
その点で、今回の動きは、一部の関係者には待望されたものであろう。しかし、この間、地域に思いを寄せ、関わりを持つ者が「関係人口」と総称されるなかで、彼らの特徴の輪郭も新たに見え始めており、その議論との接続が必要であろう。
具体的には、関係人口には、主に3つの難点があることがわかっている。「(地域にとって)見えづらい」「(地域から)離れがち」「(地域と)混ざらない」である。このうち、「見えづらい」「離れがち」への対応は、今回の「ふるさと住民登録」に期待できる。登録により、多様で分散的な関係人口が、自治体において「見える化」され、個人やその属性の特定が可能になる。また、結婚や就職等のライフイベント等により、ときには地域との関係性が希薄になる関係人口に対して、その持続化への働きかけもしやすくなる。
ところが、もうひとつの「混ざらない」という問題は残る。関係人口が地域から期待されるのは、地域と関わりを持つことにより、地域課題の解決や緩和等に資するからであろう。例えば、継続が危ぶまれる集落の小さなお祭りの担い手として、関係人口を呼び込むような例は明らかに増えている。そのような場における住民との交流が、地域の内発力を刺激し、高める傾向も見えてくる。
そこでは、関係人口と地域住民がごちゃまぜになることが必要であるが、やはり壁がある。各地で見られるのは、関係人口が訪問しても地域と混ざらない、つまり「お客さん」にとどまってしまうという問題である。この対応には、地域運営組織(RMO)や各種の実行組織が、活動を通じて「ふるさと住民」と協働するような実践が必要になる。それは地域づくりそのものの課題である。
このように、重要なのは「ふるさと住民」と地域住民の関係性の深さや持続性であろう。そうした視点がなければ、「ふるさと住民」は、自治体がどれだけ多く集めたかという数だけで評価され、その大きさを競う仕組みとなってしまう可能性がある。したがって「ふるさと住民」の登録とその後の対応を自治体だけの仕事としてはならず、地域住民も連携することが期待される。その準備期間がいよいよ始まったと考えたい。