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「集落」というまとまり

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年9月19日

東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子(第3214号 令和4年9月19日)

先日、奄美大島の大和村を訪問する機会を得た。1908年の誕生以来114年間続くこの村には、強い絆で結ばれた11の集落がある。その1つである国直集落に滞在した。

国直集落は人口111名、世帯数67(2022年7月)で、国直海岸に接する自然豊かな地域である。ここはフクギ並木やNHK大河ドラマ西郷どんのロケ地となった宮古崎を擁する自然豊かな地域であり、国直沖ではサンゴの産卵もみられる。

豊かな自然環境を保全しつつ、人々の生活を支える稼得機会をどう確保するか。国直集落では、地元のNPOとともに、地域資源の保全と、住民主体の体験交流に取り組む。イタリアのアルベルゴ・ディフーゾ(町全体を宿泊施設と捉え宿泊機能を分散する)の発想を取り入れ、「集落まるごと体験交流」という新たな観光・交流のスタイルを模索している。

体験交流では「海辺で楽しむ」「里山を楽しむ」「集落を楽しむ」「島料理を楽しむ」という4つのコンセプトを掲げ、51の体験メニューを用意する。体験ツアーの案内人は漁師、農家、主婦、唄者など地元の方々で、地域の風土や文化の営みにかかわる面白い人がいたら、その人を軸にプログラムを構築する。地元の伝統的な漁法によるトビウオ漁体験など、希少かつ魅惑的なプログラムが並ぶ。

体験交流により地元の暮らしが壊れることのないよう、住民へのアンケートとワークショップを重ね、ローカル・ルールも策定した。ごみの増加、夜間の騒音、治安の悪化といった懸念に対し、集落清掃活動の実施、夜間10時以降は外で騒がないというルールの制定、キャンプ実施の際の区長届け出、集落内の車の走行速度の20キロ制限ルールなど、独自の決まりをつくり、皆でこれを守る。

集落をサポートするNPO法人の名称「TAMASU」は奄美の方言で「大切な地域の宝物を皆で守り、平等に恩恵を分かち合う」という意味を持つ。世界自然遺産認定後も、住民自治を核に、風土と文化の保全・継承を図りつつ、観光・交流に向けた模索が続く。

集落に滞在し、その絆を垣間見、自然豊かな暮らしのお裾分けをいただくなかで、「集落」という単位は、地域の自然や風土と結びついた1つのまとまりであると再認識した。

いま、農林業センサスの集落調査を廃止する議論が進んでいると聞く。各地の集落の存続と継承は、多様で魅力ある国土の保全にも資する。「集落」を単位とした全数調査による実態把握は、豊かな国土づくりに向けた政策を考える上で欠かせないと感じる。