ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > ライン相談と世代間のつながり

ライン相談と世代間のつながり

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年3月14日

東京大学名誉教授 大森 彌(第3192号 令和4年3月14日)

2021年11月18、19日、「第3回地域共生社会推進全国サミット」が鎌倉市でオンライン開催され、基調テーマは地域共生社会の推進にデジタル技術をどのように役立てることができるかでした。パネリストの一人、村木厚子さん(津田塾大学客員教授・元厚労事務次官)の発言が示唆的でした。村木さんは、とくに生きづらさを抱え、危険に晒されやすい若年女性の支援団体である「(一社)若草プロジェクト」の代表呼びかけ人であり、その活動にかかわっています。コロナ禍により、仕事や居場所を失ったり、逃げ場がなくなったりした少女を中心に相談件数は急増しているのですが、SNSを活用したライン相談が効果をあげているとのことでした。相談先では信頼できる大人たちが対応に当たっています。

最近は、どこの市町村でもワンストップの相談窓口を設置し、断らない、たらい回しにしないことを鉄則にしています。問題は、窓口まで出かけ、対面で、顔見知りの窓口職員に相談することをためらい、独りで悩みを抱えている住民が少なくないことなのです。その打開策の一つがライン相談の実施なのです。

現在、10代前半から25歳くらいの若者たち(Z世代)の最大の特徴はデジタルネイティブであるといわれています。デジタルネイティブとは、インターネットや各種デバイスが常に身近に存在していてスマートフォンなどの機器やSNSを当たり前のように利用している人たちです。物心ついたころから各種機器やインターネットサービスを利用している若い世代はラインを利用したチャット形式の相談なら踏み出しやすい。最近注目されているヤングケアラー(障害や病気のある親や祖父母、年下の兄弟などの介護や世話をしている18歳未満の子ども)にとってもライン相談は有効でしょう。包括的な支援のための社会資源が相対的に少ない町村では、民間・住民団体と連携して、区域を超えたライン相談を可能にし、それを具体的な支援策につなげる仕組みを工夫する必要があるかもしれません。

自分の困り事や悩みを他人に相談することは自立心の弱さと考える人もいるかもしれませんし、人に相談することは人に迷惑をかけることだから自制すべきであると考える人もいるかもしれません。しかし、自立というのは、他に依存をしないということではなくて、たくさんの人とものに少しずつ依存して生きていくことではないでしょうか。自立の対語は依存ではなく孤立ではないかと思います。人は一人では生きていませんし、生きられません。デジタル社会の到来の中で、ライン相談は異世代間のつながりを可能にする有効なツールの一つといえそうです。