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陽気な母さんの店

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年10月25日

ジャーナリスト 松本 克夫(第3178号 令和3年10月25日)

秋田県大館市の郊外に体験交流型直売所の「陽気な母さんの店」がある。その名の通り農家の母さんたちが経営している。農産物の直売のほか、宅配や食堂、学校給食への食材提供もしている。きりたんぽ作りやそば打ち、農作業の体験コースもあり、修学旅行生の団体も受け入れている。21年目を迎えた今では年商2億円を超える堂々たる株式会社に成長したが、これを育て上げた石垣一子さんにここに至る道のりを聞いたことがある。

石垣さんは旧比内町から大館市の専業農家に嫁入りしたが、自分の自由になる金がほしいとそば打ちの会を立ち上げたり、1人で野菜や果物を売り歩いたり、仲間と朝市的な直売をしたりと様々な試みをしてきた。やがて通年で収入が得られればと思い、会員を募り常設の直売所設置運動を始めた。しかし、男社会の壁は厚く、議会や行政の協力は得られなかった。仕方なく、自分たちで建物を確保しようと資金集めに取りかかったが、1人2万円の金を集めるのに2年かかった。

開店後は、年間1億円の売上げがないと経営が回っていかない計算とあって、「1人1日最低3、000円売りましょう」と申し合わせた。売る物がないという会員には、「家にある物は全部ここに持ってきなさい」とハッパをかけたこともある。後に、店で売り切れそうな物があると、メールで会員に知らせて補充するシステムを整えた。食は安全が第一と会員は全員エコファーマーの認定を得た。長年の苦労が実って、今では売上げが年間300万円以上の会員も珍しくなくなった。

石垣さんの話を聞いて、日本の農村はもったいないことをしたものだと思わずにはいられなかった。農家の母さんたちにもっと早くから自由に活躍させていたら、今ごろもっと豊かで活気に満ちた村になっていたに違いない。人口減少や後継者難に悩む地域は少なくないが、女性が元気に活躍できるようなら地域は安泰である。