法政大学名誉教授 岡崎 昌之(第3123号 令和2年6月22日)
山形県金山町は「街並みづくり100年運動」を掲げて、地域に根差した景観形成に取り組んできた町だ。昭和53年から現在まで40年以上、住宅建築コンクールを実施し、昭和60年には街並み景観条例も制定した。町に産する金山杉を使い、地域に根付いた大工や職人たちが、古くから金山町で受け継がれてきた切妻屋根や白壁などを継承し、住民とともに金山にふさわしい住宅建設に挑んできた。
最近、このまちづくりに関わってきた専門家による書籍が相次いで刊行された。いずれも著名な建築家や都市計画家である片山和俊・林寛治・住吉洋二の各氏によるもので、『まちづくり解剖図鑑』(エクスナレッジ)と『金山町―中心地区―街並みづくり100年計画』(求龍堂)だ。ひとつの町を対象として、このような専門的かつ本格的な書籍が発表されるのは珍しい。
前者では金山三峰に抱かれて佇む金山の町を、集落として大きくとらえる視点や中心地区の旧家、藏、路地などの細部を、分かり易いイラストや図面で解説し、妻籠、小布施、鞆の浦など国内はもちろん、イタリア、ドイツ、オランダなどの広場や橋、塔の例を引きつつ、金山町の魅力や構造について解説している。後者では彼らが設計した小学校、役場庁舎、町営住宅等の公共施設、また公園や橋梁そして道路や舗装まで、濃密に関わってきた事象を写真と詳細な図面で示し、設計の経緯や思想、専門家としての地域への関わりについて述べてある。
全町美化運動に始まり、美しいまちづくりの提唱を掲げ、140軒をこえる金山住宅づくりを続けてきた金山町のまちづくりは、歴代町長のリーダーシップと町職員の努力、それに賛同した住民の熱意があってこそ続いてきた。しかしその背後に、これを先導した専門家たちの質の高い公共施設等の設計や景観形成への協働の姿勢が基盤となって進捗していなければ、住民の決意も定まらず、参加意欲も高まらなかったであろう。
最近では住宅建築コンクールへの申込が減少してきたと聞く。街並みづくり100年にはまだ半世紀もある。景観10年、風景100年、風土1000年ともいう。これまでの40年を受け継ぎ、これからの60年を模索するとき、この2冊の書籍は町にとって欠かせない道しるべとなるであろう。