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山中に蘇る“おがわ作小屋村”

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年1月28日

法政大学名誉教授 岡崎 昌之(第3068号・平成31年1月28日)

山深い山村で元気あふれる集落に出会うと、ホッと救われた気がする。8年ぶりに訪れた宮崎県西米良村の小川地区もその一つだ。2009年から“おがわ作小屋村”づくりに取り組んできた。西米良村自体が宮崎県最西端の山中だが、28戸、100人の小川地区は、村の中心部からさらに車で40分、険しい渓谷沿いに山に分け入る。だが小川地区に入ると、たちどころに視界が開け、山村の原風景、桃源郷のような景観が現れる。

ここは400年ほど前、肥後藩菊池氏がその根絶を憂い、一子を落ち延びさせ居城を構えたことに始まる。版籍奉還に際し、最後の領主菊池則忠は、領地の全てを住民に分け与え、生活を支援し、名君として今も慕われている。そんな歴史を受け継ぐ小川地区は、村と共同で“作小屋村”の運営に取り組んだ。茅葺の食事処や加工施設などは村が建設し、運営を地区の協議会が担っている。

訪れた当日、作小屋村の広場には大型バスが3台も停まっていた。視察や評判の高い「おがわ四季御膳」を楽しみに来る人たちだ。春には向かいの花見山の花が咲き、秋には伝統の「月の神楽」が舞われる。来訪者もここ数年は2万から2万7千人で推移している。そんな集落を目指して、移住者も24人に増え、17人は定住し、子供の声も聞こえるようになった。10年前、70%だった高齢化率は57%に下がった。

西米良型ワーキングホリデーや村民挙げての温泉施設の経営など、ユニークな村づくりを進めてきた村も、特別職を除く全職員が地区担当となり、村内8地区の活動を支援する。村全体ではここ4年でUIターン者は129人、村独自の集計だが最近の合計特殊出生率は2.21と県平均をはるかに上回る。「小規模はハンディではない。小規模だからこそできるきめ細かな取組は強みとメリットだ」と黒木定藏村長は語る。

人口減少や高齢化が常套句となったかのような日本の農山漁村だが、そんななかにも「我々の生きざまを見てくれ」と言わんばかりに、村の歴史と知恵、住民の力を結集して、集落が蘇るようになってきた町村も多い。