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日本的農泊の構築

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年2月16日

法政大学名誉教授 岡崎 昌之(第3029号・平成30年2月5日)

政府は「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、「滞在型農山漁村の確立・形成」をめざし、インバウンドを農山漁村に導入する「農泊」の推進を提起した。農水省は民泊法の施行も控え、2020年までに農山漁村滞在型旅行を実施できる農泊地域を全国に500地域創出し、地域の自立的発展と所得向上を目指す。各地で農泊地域づくりが進み、500地域で各10軒ほどの農泊の立ち上げが始まっている。これを契機に全国に5,000軒程度の農泊が誕生することになる。

農泊では、遠野市の山里暮らしネットワークが主導する農家民宿群、熊本県小国町の九州ツーリズム大学の卒業生等を中心とした九州各地の農家民宿がリードしてきた。最近では、地域おこし協力隊経験者や若い移住者が、農泊、農家レストラン、カフェの経営に乗り出している。しかし課題も生まれている。先導組の農家からは疲れや高齢化も散見できる。インバウンド対応の農泊としては、設備や周辺環境が見劣りする。

ドイツ南部バイエルン州等で1970年代から始まった「農家で休暇を」事業の農泊は、都市部の若い世帯が、安価で長期に農村に滞在でき、農家に経済的効果が上がる仕組みとして好評だ。最近の傾向は各農家が特徴を生かした専門性の高い民宿経営を進めている。乳幼児の受入れや車いすでの農作業経験ができる等、福祉マインドの高い民宿や、ワイン民宿、乗馬民宿等々で、地理的条件、経営者の資質等を最大限に発揮して経営をしている。重要なのは、これらの農村部で景観を整備する農村集落整備事業が並行して実施されていることである。

多くのインバウンドを日本の農山漁村で受け入れることは、こうしたドイツやイタリア等の農家民宿を経験した人たちに対応することである。もちろん委縮する必要はない。日本の農山漁村の集落は、それぞれが歴史的蓄積を持っている。そこで培われてきた食や生活の技、細やかな土地利用と多様な農産物、数十年前までは普通に存在していた馬や牛などの大型動物の復活など、日本の農泊が持つ可能性は高い。基本的な施設整備は不可欠であるが、農家だけでなく集落としてのたたずまいを見直していくことも重要である。