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地域主義と田園回帰

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年11月16日

コモンズ代表・ジャーナリスト 大江 正章 (第3020号・平成29年11月6日)

2000年に地方分権一括法が施行されて以来、自治・分権改革、地方主権、最近では地方創生などの言葉がよく登場する。ところが、私たちが暮らす地域も自治体行政も、大きくは変わっていない。その理由は、主に制度に焦点があてられ、地域とは何かがリアルに理解されていないからではないだろうか。 

では、地域とは何か。約40年前、経済学者の玉野井芳郎が中心になって「地域主義研究集談会」を組織し、「地域主義」を提唱した。それは「既成のものの枠をこえた何かを視座におこうとして」おり、多くの人たちに注目されていく。玉野井はこう述べる。

「地域主義とは、地域に生きる生活者たちが、その自然・歴史・風土を背景に、その地域社会または地域の共同体に対して一体感をもち、経済的自立性を踏まえて、みずからの政治的・行政的自律性と文化的独自性を追求することをいう」

「地域に自分をアイデンティファイする住民の自発性と実行力によって地域の個性を生かしきる産業と文化を内発的に創りあげる」

残念ながら、1985年の玉野井の死去や86年以降のバブル経済などによって、地域主義の思潮はほぼ姿を消す。だが、昨今の田園回帰する若者たちの発想・行動・感性を見ていると、地域主義は再びそこに生きていると強く感じる。彼らは、農林業であれ地場産業であれ自治体の仕事であれ、まっとうなものをつくり、広めるという倫理観と、適切なビジネス感覚(=経済的自立)をもちあわせている。彼らが目指すのは、新自由主義に基づく弱肉強食の世界と対極にある、「共」的存在(コモンズ)をベースとした社会だ。それは地域主義が提起した社会像でもある。

玉野井が編んだ『地域主義』という本は冒頭で、「<地域>という漢語によって眼前にうかぶ表象は、どこか硬く、冷たく、そして乾いている」と述べる。だから、それを生身の生活の場に取り戻そうとした。同様に、自治・分権改革も地方主権も地方創生も、硬く、冷たく、乾いている。それを軟らかく、温かく、潤いをもって地域に埋め込んでいくのは、田園回帰した若者たちの役割だ。