ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ

昼寝

印刷用ページを表示する 掲載日:2000年3月13日

エッセイスト 山本 兼太郎 (第2307号・平成12年3月13日)

定年になって、もっともよかったことはなにか、と友人にたずねると「遠慮なく昼寝ができることだ」と、いかにも嬉しそうに笑っていた。

中国の孔子は、弟子の宰予が昼寝をしているのを見て、「朽木(きゅうぼく)彫ルベカラズ」と嘆いたそうだ。よほど昼寝が嫌いだったのだろう。ぼろぼろにくさってしまった木は、彫ることもできないし、なんの役にも立たない。やる気のない者はどうしようもないという場合に使われたりする。

とはいえ、万物春めいてぽかぽか陽気の昨今、昼食も終って、さて午後の仕事だというころになると、快い眠気に引き込まれる。抵抗しがたいところをみると、一種の生理現象だろう。

南ヨーロッパや南米諸国のシエスタ、いっせいに昼寝をする習慣はよく知られているが、アメリカの方は、開拓者の国のせいか、昼寝はなまけ者の象徴のようにみる人が多い。朝起きると、病気でもないかぎりは、昼間から寝るべきではないという風潮が強い。

とはいっても、長時間デスクの前に座っている仕事では、眠くなる。そこで、職場に仮眠所などをつくるところがある。睡魔に襲われるのを我慢しているよりも、むしろ積極的に仮眠をとる。頭も体もすっきりリフレッシュしてから仕事にとりかかる方が、合理的だというのである。こんな職場が最近アメリカで話題になっているそうだ。似たようなことは日本でも行われている。例えば、高層建築の作業現場では、昼食後の昼寝はよろしいというのである。

ただし、この種の昼寝はせいぜい15分か20分以内。1時間以上にもなると、身体のリズムが狂ってしまい、リフレッシュどころか、能率の低下や事故の原因にもなるという。

いくら昼寝はよいからといっても、寝すぎてばかりいては、「朽木彫ルベカラズ」ということになるのだろう。