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“担い手への集積”と“地域の存続”

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年10月2日

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3015号・平成29年10月2日)

先日、北海道鶴居村を若手酪農家取材で訪れた。人口約2,500人の小さな村だが、酪農で乳質日本一を誇り、(株)鶴居村振興公社が製造するナチュラルチーズも評価が高い。一農業経営体あたりの年間平均所得は全国トップクラスの酪農立村だ。

取材相手は飼養頭数250頭規模で和牛繁殖も手がける地域リーダー。取材テーマは日欧EPA大枠合意の影響だったが、それ以上に彼が懸念していたのは「地域の力」だった。

すでに国内酪農は減少基調にあり、北海道より本州の減少率が高い。その北海道でも、酪農家の離農は年間200件規模に及ぶが、生乳生産量は微増している。鶴居村でも、離農者はいるが村全体の生乳生産量は維持している。担い手の規模拡大が進んだ結果だ。

今の農政から見れば優等生だ。ただし、「地域」という視点では新たな課題が浮上していると彼は言う。担い手に集約化するほど地域から人が減る。酪農産業への依存度が高いだけに「離農=地域の衰退」になりかねない。産業政策だけで割り切れない農業の本質的な問題がそこにはある。

どうすれば離農者が住み続け、移住者も呼び込めるか。彼は、観光に力を入れ始めた村と連携して、昭和初期から続く酪農文化と、釧路湿原、牧草地を丹頂鶴が舞う風景を組み合わせた地域づくりの中で地域に仕事が生み出せないかと考え始めていた。

「もちろん利潤を求めなければ次の世代に農業を残せない。ただ、周囲に誰もいない中、ぽつんとここで暮らして酪農ができるのか。経済活動のその先に一歩超えて、地域と一緒にやっていく。農業ってそんな産業なんじゃないかと思うんです」と彼は言う。

産業政策としての農業の効率化と地域の存続のバランスをどうとるか。今、多くの農村が共有する課題ではなかろうか。農業を農業だけで考えず地域政策の中に組み込む重要性が、近年ますます増してきたように感じている。