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地域自給戦略と「地消地産」

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年1月16日

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第2986号・平成29年1月16日)

近年、「地産地消」ならぬ「地消地産」という言葉を耳にする。長野県は、「地方創生総合戦略」に「地消地産」の推進を盛り込み、各部局横断で「地消地産推進タスクフォース」を設置。ねらいは「経済がグローバル化する中でも足腰の強い地域経済づくり」だ。

「地産地消」と「地消地産」。似ているようで大きなちがいがある。「地産地消」は、「地域で生産されたものを地域で消費する」という消費行動への呼びかけ。一方の「地消地産」は、「地域で消費するものは地域で生産する」という生産構造の変革を意味する。

農産物に限らず、地域外から購入していたものを地域内で生産し置き換える「地域自給」を進めることで、地域外に流出していたカネを地域に取り戻す経済の地域内循環の考え方だ。

長野県より一足早く、山形県飯豊町は、13年度に始めた「飯豊・農の未来事業」に基づく農業改革の柱のひとつに「持続可能な地域自給」を据えた。実はこの動き、行政の前に、地域有志から始まっている。14年に(一社)置賜自給圏推進機構が設立され、置賜地域3市5町を自給圏ととらえ、圏外への経済依存度を減らし、エネルギー・食・住の圏内自給の推進を目指す旗を揚げている。

飯豊町は、米沢牛の4割を産出し、施設園芸でのIターン者の多い、農業でいえばけっこうな“勝ち組”の自治体だが、置賜8自治体の中で最も自給圏構想に積極的だ。

政府は、農業のグローバル化への対抗策として「農地集積」「6次産業化市場の拡大」「輸出振興」を3本柱として農業改革を推進している。産業政策としてだけ見れば理にかなった面もあるが、「暮らしの場」としての農村地域は産業政策だけで割り切れない。

“外貨稼ぎ”だけでなく、地域から流出している経済を点検し、生産・加工・消費の連携で内発的な小さな地域経済を生み出す堅実な道も重要ではないか。そう判断し動き始めた地域が登場していることに注目したい。