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そげですね

印刷用ページを表示する 掲載日:2010年11月29日

東京大学名誉教授  大森 彌 (第2741号・平成22年11月29日)

NHKの連続テレビ小説、「ゲゲゲの女房」は、視聴率(ビデオリサーチ「総合」部門)20%台を維持しヒット作品となった。なぜ、「ゲゲゲの女房」が、あんなにも受けたのか。専門家の見方や分析はあろうが、どうやら地域言語の出雲弁の温かさこそ、その要因ではなかったか。  

このドラマは、漫画「ゲゲゲの鬼太郎」で有名な武良茂(ペンネーム・水木しげる)夫人の武良布枝(むらぬのえ)さんの自伝(『ゲゲゲの女房 人生は、・・・終わりよければ、すべてよし!!』)を基にしている。主人公の布美枝を身長174センチの女優・松下奈緒さんが演じている。  

島根県安来市の飯田家の三女、布美枝は鳥取県境港市出身で東京都調布市在住の漫画家の村井茂と結婚する。布美枝は、夫の成功を信じ、窮乏生活を辛抱強く凌いでいく。まず妖怪貧乏(貧乏神)に、次は妖怪いそがしにとりつかれ、やがて妖怪が見えなくなるスランプに陥り、またそこから脱却していくといったドラマの展開は、貧しさから這い上がってきた戦後日本人の歩みと重なって見える。辛抱・忍耐が日常生活の常道であることがよくわかる。  

ところで、主人公・布美枝の言い回しがなんともいいのである。「そげですね」(そうですね)、「そげですか」(そうですか)、「だんだん」(ありがとう)といった出雲弁が出てくる。布美枝は、よく「はい」と「そげですね」を使う。それは、会話をしている相手を決して突き放さず、温かく包み込んでいる感じがする。取るに足らない話でも、「そげですね」、「そげですか」と話を聞いてくれる人がもし身近にいたら、その人に心を開き、素直な心になれるというものである。この肯定話法が人気の秘密ではなかったかと思う。  

「だんだん」は、より個性的な出雲弁であろう。「だんだん」は、もともとは、近世後期の京都の遊里で「ありがとう」の意味で使われていたものが伝播し定着したものらしい。この「だんだん」は、3人組の「いきものがかり」が唄う主題歌「ありがとう」と呼応している。なんとも心憎い組み合わせであると思う。