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事務事業ワンセット主義からの脱却

印刷用ページを表示する 掲載日:2002年6月10日

千葉大学教授 東京大学名誉教授  大森 彌 (第2401号・平成14年6月10日)

現行の地方自治制度では、基礎自治体は「市町村」というように一続きで捉えられ、一般的な地域の事務を担う自治体であると考えられている。住民票の交付などの事務から各種のサービスや規制の事務を、公選首長の下に、一括して、総合的に行うものとされている。これを市町村事務のワンセット主義と呼ぶことができる。

ここでは、ワンセットで配分されている事務を総合的に実施する能力が想定されている。現在行われている市町村合併の勧奨も、結局、この考え方に即して、その能力が十分ではないから大規模化すべきだという発想をとっている。逆に合併に反対するひとは、区域を広げると住民のニーズにきめ細かく応じられなくなるという。合併に対する態度は違っているが、市町村に一律に配分されている事務の体制を前提にした議論である点では同じである。

そこで、もし今次の合併推進にもかかわらず、相当数の小規模町村が残るならば、その事務を縮小して、必要な事務は府県に肩代わりさせればよいではないかという考え方が出てくる。これは、明らかにワンセット主義に基づく対処方策である。

しかし、今日、例えば医療、看護・介護、救急、文化施設など、基礎自治体がワンセットで個別に備えるべきものであろうか。そうした機能が必要であるにしても、各事務事業の効果的な目的達成と資源(資金・人員など)の効率的な配分・管理の観点から見直しが必要なのではなかろうか。

農山村地域では、現在は府県までしかおりていない農林業関係の事務権限を町村がもつことによって、都市地域とは異なった個性的な行政を展開できるようになってしかるべきではないだろうか。一律にワンセットの行政責任を市町村に課す体制を変えていくべきではないか。この観点からも新たな「町村制」の構想が必要であると考える。