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農村版ショック・ドクトリンを許すな

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年6月23日

コモンズ代表・ジャーナリスト 大江 正章 (第2883号・平成26年06月23日)

増田寛也・元総務大臣とそのグループ(日本創成会議)が日本の地域別将来推計人口をベースに書いた論文が話題を呼んでいる(『中央公論』2014年6月号)。 人口の急減をストップさせるために国民の希望出生率(1.8)を実現させ、東京一極集中に歯止めをかけるという。マスコミ報道では、 あわせて公表された「2040年に896の市町村に消滅可能性がある」「そのうち523は人口1万人以下になる」という部分が大きく取り上げられている。「2040年に20~39歳の女性人口が50%以上減少する」というのが、 その根拠である。

この論文とメディアの反応には問題が多い。まず、「女性半減=市町村の消滅」というのは乱暴な推計だ。人口移動に関しては、 3.11以降に顕著になった若者の農山村移住志向を考慮していない。「20~39歳の女性人口」減少率トップの南牧村(群馬県)には、この3年間で14世帯26人が移住したそうだ。 20位の神山町(徳島県)にはIT系企業が相次いでサテライトオフィスを開き、若者たちが充実した仕事と暮らしを営んでいる。そもそも指摘されているのはあくまで「可能性」なのだが、 あたかも「消滅する」かのような書きぶりである。

そして、最大の問題は、この論文が増田氏の意図とは別にひとり歩きすることだ。増田氏は、 半年前には「地方が自立した多様性の下で持続可能性を有する社会の実現を目指すことが重要」と述べていた。ところが、今回は「地方元気戦略」を掲げながら、「選択と集中を徹底し、 地方中核拠点都市に投資と施策を集中する」という。これでは、「一極集中への歯止め」どころか、過疎の農山村の切り捨てになりかねない。

経済成長率重視の政府にとっては、人口と資本の都市集中が望ましいのかもしれない。しかし、日本が「持続可能性を有する社会の実現を目指す」ためには、農山村のありように学ぶ必要がある。 人口減少問題に便乗し、TPPや道州制の推進と符合した農山村つぶしの動きがあるとすれば、それに対抗しなければならない。