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山村に引っ越した友人

印刷用ページを表示する 掲載日:2011年1月31日

コモンズ代表・ジャーナリスト 大江 正章 (第2747号・平成23年1月31日) 

学生時代の友人が50代もなかばになって、和歌山県の奥深い地域に引っ越した。那智勝浦町の色川地区である。近隣の勝浦市までは、つづら折りの細い山道を乗用車で約40分かかるという。

生まれも育ちも東京のど真ん中。人生のほとんどを都内で暮らしてきた人間だ。もともと田舎暮らしや農業に関心があったわけではないが、趣味の山登りを通じて知り合った色川在住で有機農業者の女性と知り合い、めでたく結ばれたのだ。昨年末に来た手紙には、こう書いてあった。

「畑仕事はほとんど初めてでしたが、少しずつ慣れ、今では晴れた日に二人で熊野の山並みを見ながら畑仕事をするのが本当に楽しく、これからの第二の人生も、なんとなく開けてきたかなと思っています。来年からはいよいよ本腰を入れて、二人で食べるものはできるだけ自分達で作り、少しは直売し、自給自足のゆったり人生を目指そうとは思っていますが、まあ、自分の小遣いくらいは稼がなくちゃ、とハローワークで日銭稼ぎの求職中でもあります」

色川地区は都会からの移住者が多いところとして知られている。3割近くの約60戸が新住民だ。もともとは70年代に有機農業を志す若者が入り、徐々に増えていった。いまでは、色川体験や定住訪問などのプログラムや仮定住のシステムも用意され、百姓養成塾もある。

単なる憧れだけではなく、山村生活の厳しさも経験したうえで、定住につなげていくのだ。ぼくの友人も現実をきちんとみつめていて、有機農業だけで生活できるとは考えていない。

都会からの脱出希望者は年齢・性別を問わず、増え続けている。その流れは今後も変わらないだろう。彼らに田舎のさまざまな真実を理解してもらったうえで、仲間として受け入れていけば、地域に活気が生まれる。彼らにとって田舎暮らしや不便さは、決してマイナスの記号ではない。