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有機農業が生み出す美味しいまち

印刷用ページを表示する 掲載日:2010年9月27日

コモンズ代表・ジャーナリスト 大江 正章(第2734号・平成22年9月27日) 

お昼のランチは米も野菜も卵もすべて、日替わりシェフが働く近くの農場で採れたものだった。メインは旬の夏野菜のラタ・トゥイユだ。夕食はイタリアン。野菜をふんだんに使ったパスタ、天然酵母パン、サラダ、冷製スープ。冷やした地酒が、よく合う。仕上げは、小さなブルワリーで地ビールを堪能した。

これらの素材のすべてが、地元産の有機農産物だ。パスタの小麦も、日本酒の米も。地ビールは、元大学教員が小麦や雑穀などの原料からビールまで手作りしている。どれも新鮮で、季節感豊かで、安全で、なにより美味しい。究極の地産地消であり、旬産旬消である。

ここは埼玉県比企郡小川町。東京・池袋から急行電車で約70分。手漉き和紙で名高い一方で、有機農業のまちとしても知られている。町外出身の新規就農者は約30人にも及ぶ。71年以来、金子美登さん(現在は町議も兼ねる)が先駆的に、農薬や化学肥料を使わず、環境保全に資する有機農業を続けてきた。80年代半ばからは、日本酒・うどん・醤油・豆腐など地場産業との連携も進んだ。そして、この数年で有機レストランが急増。町内で4軒になった。どの店も、地元の常連客に加えて、町外からわざわざ食べに来る人たちも多いという。まちおこしにつながっているわけだ。

さらに今年秋には、金子さんの集落の無農薬ジャガイモを使った小川町コロッケが誕生する予定だ。関係があまり深くなかった商店街の肉屋さんと有機農業の間を、町内のNPO法人のリーダーが結びつけた。地に足がついた農商工連携である。

有機農産物はこれまで、特定の生産者と消費者の提携という側面が強く、地域住民への広がりにはともすれば欠けるきらいがあった。小川町のケースはそこを乗り越え安全で安心できる食べものへの広範な人びとのアクセスを可能にして、新しい公共を市民レベルで生み出したのである。自治体行政の適切な支援がここに加われば、より大きな動きに広がるだろう。