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ふるさと納税の新しい展開

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年11月14日

法政大学名誉教授 岡崎 昌之(第2980号・平成28年11月14日)

長崎県大村空港からほど近い、おおむら夢ファームシュシュを訪ねたとき、山口成美社長から意外な話を聞いた。従業員90名、年間50万人が訪れる九州北部では有数の農業交流拠点施設だが、 農産物販売やレストラン経営にも増して、大きな売上げを占めているのが、大村市からの依頼によるふるさと納税の返礼品だという。

平成28年度総務省ふるさと納税現況調査によると、27年度の寄付総額は1,653億円で、制度開始の20年度の20倍へと拡大している。だが個別市町村の受け入れ寄付額をみると、 宮崎県都城市をトップとして上位20市町への寄付額が、全体の約3割を占めている。ただふるさと納税の利用者は、個人住民税納税者の3%にも満たず、受け入れ寄付額が1千万円以下の自治体は約半数となっている。 この制度をまちづくりに活かせる可能性はまだまだこれからといえる。

一方、返礼品の過当競争や、商品券、家電製品など換金性の高い返礼品の送付など、富裕層の節税策ではないか、といった批判もある。総務省も平成28年4月、ふるさと納税本来の姿を徹底するよう通知をだした。 ふるさと納税の提唱者である西川一誠福井県知事は「税が減ることの都市の寛容さ、それに対する地方の感謝」によってふるさと納税は支えられると述べている。

これからのふるさと納税は、たんに返礼品という“もの”で競争するのではなく、寄付をした市町村に実際に足を運び“もの”を創った“ひと”と生身の交流ができる仕組みを工夫することが重要であろう。

西川知事らによる「ふるさと納税未来大賞」では、北海道東川町のひがしかわ株主制度をとおしてまちづくりに参加、交流する仕組みや、弘前市の弘前城天守曳家体験を返礼品とする試みなどが多くの寄付金を集め、 表彰された。古民家や土蔵の修復への参加、クラインガルテンへの居住体験など、寄付者が現地へ足を運び、地域と交流することで、いずれは移住に結びつく試みこそ重要であろう。

また小規模離島や地形の厳しい山村等では返礼品を用意することも難しい。魅力的な応援施策メニューの構築や周辺町村との連携など、広域で対応することも検討していい。