ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > オープンガーデン

オープンガーデン

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年1月20日

法政大学教授 岡崎 昌之(第2866号・平成26年1月20日)

丹精込めた個人の庭を、訪れた人に自由に楽しく見ていただき交流しようという、オープンガーデンの試みが、全国で盛んとなっている。地方の町村のみならず、大都市でも取り組まれている。 そのなかでも長野県小布施町は、昭和55年から花によるまちづくりを進め、平成12年に住民38軒でスタートしたオープンガーデンは、現在、店舗を含め127軒と大きな広がりをみせている。

町中の住宅の庭先に掲げられた“Welcome to My Garden”の木札に誘われて入ると、そこは全くの個人の庭。手入れされた花や庭木が見ず知らずの旅人を癒してくれる。竹製のベンチが置かれていたり、 夏場にはビールサーバーまで用意されているお宅もある。いまでは市街地周辺の農家でも多く取り組まれている。同じ木札を確認して庭に入らせていただくと、白いガーデンテーブルには、“今、畑に出ています。 どうぞごゆっくり!”と書かれたプレートが置いてあったりする。

町並修景や沿道景観保全に取り組んできた小布施町は、江戸時代から栗の産地で、加工した多様な栗菓子や周辺農村部の果物生産も相まって、首都圏を背景とした観光地としても注目を浴びてきた。 町の落ち着いた佇まい、晩年の葛飾北斎を招き入れ、その肉筆画を集めた北斎館、オープンガーデンの試み等は、たんなる観光地ではなく、町が気品を持って旅人を受け入れるという安心感を、 訪れる人に手渡してくれる。

公の道から門をくぐって庭に入る。そこは全くの“私”の空間だ。しかし家の中から見れば、玄関から少し先の“私”の空間である庭を、多くの人と共有しようという心意気は、“私”の中に固く閉じこもって、 “公”と対峙しようという姿勢を乗り越えた“共”を優先しようとする姿勢を窺うことができる。美しい町、 気品のある町とはつまるところ、こうした“共”空間、“共”領域をいかに拡大するかにかかっている部分が大きい。

小布施町では“ふらっと農園”事業も始まろうとしている。多種多様な果物や野菜を手掛ける農家と、小布施を評価する人たちの間で、新しい農の“共”空間が広がろうとしている。