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百年の思いをこめた木造校舎

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年8月24日更新

法政大学教授 岡崎 昌之(第2690号・平成21年8月24日)

栃木県茂木町の茂木中学校は、平成20年末に完成した。地域における今後の木造建造物のあり方を示唆する意義ある建物だ。

一つは頑なに木だけにこだわらず、下階への騒音を防ぐ普通教室部分や管理棟などは鉄筋コンクリートにし、木造とRCを組み合わせた混構造にした点である。しかし玄関から一歩校舎へ足を踏み入れると、木の香りと目に優しい木目に包まれる。ひとたび廊下を歩くと、桧の天井と床、杉の壁材、そして両側に並んだ2階まで貫く大径木(だいけいぼく)の列柱に圧倒される。

木材の使用にも細やかな配慮がある。1年生の教室の壁材は杉の白身部分、2年は少し高級な赤身、3年教室は床も壁も、脳刺激成分を放出する桧を使用。進路指導室の壁材はアスナロ。少し落ち込んでも「明日はヒノキになろう」と勇気付けるためだそうだ。生徒用の机や椅子も、工事で出た端材を集成材にして、子供たちの意見を聞きながら独自のデザインで作った。これは町内すべての中学校にも整備している。端材だけでなく、製材の工程ででたおが粉まで、有機リサイクルセンター「美土里館」で堆肥の原料にした。

内装は全て無垢材を使用しており、木材の水分を放出、吸収する特性を阻害しない よう、米ぬかとエゴマを主成分とする自然塗料が用いられている。廊下の雑巾がけはもちろん、年2回は生徒たちが自然塗料の雑巾がけもおこなう。

もう一点は材の調達だ。使用した木材の7割は旧逆川財産区の町有林の杉、桧を活用した。旧逆川村では大正2年から、将来の財政への寄与を目的に大規模な植林を行った。村民全員がお金を出し合い、127町歩余(約120ha)を公有地として買い上げ、延べ1万5千人が出役し、杉17万本、桧48万本の苗木を植林した。昭和56年まで下草刈りや枝打ち作業などの管理を行ってきたが、平成12年に町へ移管された。これらの木が70年から90年の樹齢を越え、今回、上層間伐によって茂木中学校の建設に用いられた。

植林や育林の経緯は、茂木町南部の旧逆川村役場跡に今も残る「恵澤合著(けいたくごうちょ)」の石碑(昭和26年建立)に詳しい。100年前の村民の思いが、町の子供たちの学び舎となってよみがえったわけだ。今度は茂木中学校の生徒たちが、「父祖の恵澤を忘れず」将来に羽ばたいてくれるだろう。