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「まちづくり元気塾」

印刷用ページを表示する 掲載日:2008年1月7日

法政大学教授 岡崎 昌之(第2625号・平成20年1月7日)

東北電力(株)の肝いりで、新潟県を含めた東北7県を対象に「まちづくり元気塾」が展開している。まちづくりに取り組む住民グループや団体、NPO等に対して、それを支援する専門家を「まちづくりパートナー」として派遣する。2、3名のパートナーが、年数回、現場を訪れ、議論を重ね、具体的な解決方策を模索、提案する。

その一環でこの「元気塾」が開かれているのが、秋田県阿仁町の根子集落である。阿仁町は今回の市町村合併で北秋田市という素っ気ない地名になったが、江戸時代から日本有数の銅生産の町、阿仁合を中心にした鉱業の町であった。しかし昭和30年代に銅生産も終了し、町の中心部も往時の面影はなくなった。中心部から南に約8キロ、昭和50年に開通した根子トンネルを抜けると、眼下に肩を寄せ合うように息づいている根子集落が見える。周囲を山に囲まれ、桃源郷のような美しい集落だ。

この集落にはマタギと根子番楽という誇るべき二つの伝統がある。根子マタギと呼ばれ、昔は北海道から北陸の山々までを渡り歩き、熊の胆を加工して全国に販売していた。根子番楽は幸若舞よりも古いとされるから、室町時代に端を発し、500年を経て継承されている。もとは根子の長男だけに舞うことが許された勇壮な舞で、重要無形民俗文化財の指定を受けている。

元気塾で地元の方々と集落内を詳しく点検すると、これまで永く70戸で維持されてきた根子だが、過疎高齢化で5年後には50戸に急減することが予想される。マタギや根子番楽の継承も危機的状況だ。だが他方で、集落内には多くの宝も眠っていることが分かってきた。大きく拡大した詳細な地図を集会所の大広間に広げ、地元の方々と額をつき合わせて検討すると、「ここには春に水芭蕉の花が咲く」「カタクリの群生がある」「この山から根子を見るともっと綺麗だ」「この萱葺家は何かに使えないか」「あそこの婆ちゃんの漬物は美味い」と、沢山の意見が出てきた。

次回の「元気塾」には、自慢の一品、ベストスポットのデジカメ写真、散策ルート提案等々を地元の方々が持ち寄る。楽しみだ。500、600年続いたこのような集落を、ここ50、60年で消滅させてはならない。