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いやしの温泉まちづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年4月21日

法政大学教授 岡崎 昌之 (第2436号・平成15年4月21日)

それほど知名度は高くないが、吉岡温泉は鳥取市の西南部に位置するひなびた温泉地だ。温泉の所在する旧吉岡村は昭和28年の市町村合併で鳥取市に編入された。かつては鳥取藩主が供を引き連れて、湯治にきたという由緒ある温泉でもある。最盛期には60万人を越える入込み客数を数え、昭和40年代に松山道後温泉が発行した「全国共同浴場番付」では前頭14番目に位置付けられている。9井ある泉源の内、4井が集中管理され、湧出量は毎分917リットル。16軒の小ぢんまりとした旅館には、十分すぎるほどの湯量である。無色透明の単純泉のため、各家庭に配湯され、

暖房や煮炊きにも利用されている。

だが最近は、温泉街をリードしてきたホテルが閉鎖し、訪れる人も大幅に減少している。これに危機感をもって立ち上がったのが、旅館の女将さんたちである。女性の感性を活かしたきめ細かいまちづくりが始まった。各旅館の入口には、共通の洒落た暖簾と板に書かれた俳句を架け、さりげなく季節の花も飾ってある。そんな試みが評価されて、鳥取県が募集した景観コンテストで優秀賞に輝いた。隣接する湖山池で取れる、鯰を活かした料理にも取り組み、住民と一緒に作成した「吉岡温泉まちづくり整備計画」も策定された。

窮状を抱えながら、なんとか再生しようとしている温泉は全国に幾多ある。こうした取り組みに今必要なのは、新しい福祉的な視点ではなかろうか。この吉岡温泉を見れば、用水路のような川と道を挟んで、両側に小ぢんまりと並ぶ旅館群がある。整備すれば風情をます路地はそぞろ歩きに最適だろう。周囲はやわらかく農山村の風景が取り巻いている。夏にはほたるが乱舞する。

懸命に存続させてきた旅館を、観光旅館としてだけでなく、高齢者の介護施設、グループホーム等としてとらえなおす視点が重要だ。温泉街の中心部には共同温泉が残っている。これも町の人と訪れる人たちの健康づくりや交流のセンターとして再生できる。さいわい旅館には、湯治客に対応してきたもてなしの心が残っている。こうした

環境とノウハウと人材を総動員して、いやしの温泉にまちづくりとして取り組む方向を期待したい。