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クアージュゆふいん

印刷用ページを表示する 掲載日:2002年9月16日

法政大学教授 岡崎 昌之 (第2412号・平成14年9月16日)

大分県湯布院町は生活型観光地を標榜し、まちづくりと観光を融合しようとするまちとして知られている。この由布院温泉で、いま1人の保健婦(最近では保健師と言うそうだが)を中心とした住民ぐるみの活動により、かつては課題を抱えていた施設が、最近では反対に住民の拠り所として、よみがえっている。

その施設は健康温泉館クアージュゆふいん。由布院観光の原点ともいえる保養温泉地を目指す「クアオルト構想」に基づき、1990年にオープンした。1995年までは土地信託制度を活用して、民間が経営にあたっていた。しかし由布院盆地内の各家庭にはほとんど内湯があり、観光客も旅館の温泉を使う。そのため、利用する人は少なく、経営は必ずしも上手くいかず、1996年からは湯布院町の直営となった。そこへ町の保健婦として着任したのが、ベテランの森山操さんだ。

森山さんに与えられたのは、施設の経営を立て直すこと、健康温泉館を活用して住民の健康づくりをするという、2つの難しいテーマだった。湯布院町も高齢化し、町内の病院は高齢者のサロンと化すほど、病院通いのお年寄りが多い。まずは高齢者の健康づくりのため温泉プールを活用した水中運動法を実施した。専門家からきちんと指導を受け、体の痛みを無くすことを目標にした。高齢者だけでなく中高年者にも参加者は広がった。2000年からは、基礎的な指導を受け、自分で痛みを克服した経験を持った人たちからボランティアを募り、水中運動リーダー養成講座もスタートした。現在ではここから育ったリーダーが60名。新しい参加者にはこうしたリーダーが、プールの中で積極的に声を掛けたり、簡単な指導をする。

医師との連携も大切だ。この試みに注目した医師2人は温泉療法士の資格をとっている。温泉療法を受けに来た町外の人たちも、医師の紹介状を持って、温泉館に来るようになった。障害者も難病を持つ人も、観光客や町の人と一緒になって水中運動を行う。国保の医療費も徐々に逓減している。1つの施設としてだけでなく、地域全体でみれば、経営的効果も上がってきたといえる。