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田園回帰と新語

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年2月22日

明治大学教授 小田切 徳美(第2951号・平成28年2月22日)

「孫ターン」が話題となっている。昨年(2015年)2月9日号の本欄で論じたように、親世代を飛び越し、祖父母の住む農山村に移住する孫世代の動きが各地で見られる。 最近では週刊誌や新聞、テレビ等の媒体でしばしば取り上げられている。

こうした言葉を作り、実態を見直してみると、その量的な大きさに驚かされる。筆者の実感では、移住者には1割以上の割合で「孫ターン」がいるように思われる。そうした実態を見聞きして、 一昨年あたりから筆者はこの言葉を使っているが、実はアクティブな移住相談機関として活動する「ふるさと回帰支援センター」では、副事務局を務める嵩和男氏がこの傾向にいち早く気がつき、 既に2~3年前からセンター内で使用しているという。新語は実態の中から必然的に生まれている。

新語といえば、カタカナの「ナリワイ」という言葉も同様である。これは、「ナリワイで生きるということは、大掛かりな仕掛けを使わずに、生活の中から仕事を生み出し、 仕事の中から生活を充実させる。そんな仕事をいくつも創って組み合わせていく」と論じ、自らもそれを実践する伊藤洋志氏により提唱された言葉である。田園回帰の実践者の中では、 新しいライフスタイルとして、確実に拡がっている。

さらに、「継業」という新語もある。鳥取大学准教授の筒井一伸氏らによって作られ、移住者の仕事として、従来の就業や起業に加えて、「業を継ぐ」という意味で言われている。農山村には、 その商品・サービスの需要はあるものの、担い手不足により、継続が困難化している仕事がある。伝統工芸が典型であるが、身近な「パン屋」「豆腐屋」などもそのような状況にある。 これも、このような言葉を知り、見回してみると、若い移住者が、起業よりも継業で対応しているケースが意外と多い。

この3つの新語に共通することは、その現象の担い手がいずれも若者であるという点である。そして、それに呼応するように、この実態に気づき、これらの新語を作り出したのも若い実践家や研究者である。

「孫ターン」「ナリワイ」「継業」。町村の移住支援担当者は、こうした新しい現実にキャッチ・アップし、さらにそれらを持続化させるためにどのように支援するのか、 柔軟な発想で考える必要がある。このためには、その担い手と同様に、若い世代が期待される。若手職員の腕の見せ所である。