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過疎自治体の正念場

印刷用ページを表示する 掲載日:2010年3月8日

明治大学教授 小田切  徳美 (第2712号・平成22年3月8日)

過疎法の延長が確実となった。過疎地域自立促進特別措置法の一部改正案が、3月2日に衆議院で可決され、審議の場は参議院に移されている。

改正案で過疎法は6年間延長される。過 疎法の歴史を見ると、法律の一部改正は初めてのことである。今までの3回の延長は、いずれも新法によって行われていた。しかし、今回は形式こそ「改正」であるが、内容は新法以上に革新的な内容を含んでいる。いうまでもなくソフト事業の過疎債の対象化である。

過疎債は、道路建設や施設整備の資金を対象としていた。そのため、過疎対策がハード整備に偏重したという批判は従来からあった。だが、将来世代に負担を求める公債に関しては、彼らになんらかの便益がおよぶハード事業に限定することはひとつの筋の通った原則である。今回の改正は、その原則を突き破った。それほど、過疎地域 では、地域医療や生活交通の確保、集落維持のための非ハード的な対策が喫緊の課題であったのである。まさに「コンクリートから人へ」への転換が要請されており、その条件を整備した点で革新的である。

しかし、そうであるが故に、対象となる事業の原則の確立が必要となる。住民の命と暮らしを守る最低限の医療、生活交通の整備は、ハード、ソフトを問わず、必要な事業であろう。それ以外の取り組みについては、毎年流れ出てしまう「フロー的ソフト事業」となんらかの形で地域の仕組みを革新する「ストック的ソフト事業」(仕組 み革新ソフト)に分け、後者に重点をおいた対応が求められよう。例えば、集落支援員のための経費がその代表例である。

分権改革下では、このような原則の多くの部分は、自治体の判断に委ねられことが 予想される。そして、それを具体化するのが市町村過疎計画である。改正法ではソフト事業の対象化にあたっては、市町村計画で定めることを求めている。

したがって、新しい市町村計画の策定に あたっては、10年前の延長時よりはるかに周到な議論が欠かせない。どのような事業を過疎債の対象とするのかは、住民だけではなく、国民全体が注目していると思うべきであろう。そうした強い緊張感と創意工夫がなければ、6年後の改正過疎法失効時に、さらなる延長の国民的合意が困難となる可能性もある。

過疎自治体の真の正念場は、過疎法の延長ではない。これから始まるこの過程にこそある。