ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > 人口の東京一極「滞留」

人口の東京一極「滞留」

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年8月31日

明治大学教授 小田切  徳美 (第2691号・平成21年8月31日)

今、人口の東京一極集中が進んでいる。統計的に見ると、21世紀に入り現在までは、高度経済成長期やバブル経済期に続き東京圏への人口集中が顕著な時期であり、しかもその傾向は最近になるほど強まっている。2008年では東京圏への転入超過数は年間約15万人に達しており、この値はバブル経済期ピークの1987年にほぼ相当する。つまり、現在は「第3の東京(圏)一極集中期」に他ならない。

しかし、その内実は過去2回とは大きく異なる。それは、人口の転入超過幅の拡大をもたらしているのが、東京圏への転入者の増大ではなく、転出者の減少を主要因とすることである。ライフサイクルで言えば、過去2回のパターンは、人々は高卒時の就職・進学で東京圏に大流入するが、その後20歳代後半から30歳代前半には東京圏から地方部への転出が強く見られ、この世代は東京圏からの転出超過であった。ところが、今回は、その傾向が弱まり、それどころか転入超過傾向も見られる。つまり、進学や就職で東京圏に出てきた若者が、30歳を過ぎても地方部に戻らない傾向が強まっている。

そして、その対極の動きとして、地方における人口減少が加速化した。特に、地方圏における人口3.5万人規模の中小都市の対前年人口減少率は2008年には遂に1%を超えている。現行過疎法による「過疎地域」の定義は、主要な人口要件で言えば、35年間(1960年、95年)で30%以上の人口減少率を示す地域であり、その点で年率1%以上の減少は過疎地域そのものである。

こうした変化は重大である。従来はそれなりに地元に戻っていた地方出身の若者が地方に戻らず、滞留する傾向は、地方に「戻れない」ことを示唆するからである。そうであれば、この現象は東京圏への一極集中ではなく一極「滞留」と呼ぶべきであろう。そして、その結果、地方圏の中心部でも過疎化が進んでいる。

このような一極「滞留」は、東京圏にとっても、地方圏にとっても不幸なことである。「住みたいまちで暮らせる日本を」(定住自立圏構想のキャッチフレーズ)を実現する国土政策がいまこそ必要である。新政権にとって、最大の政策課題のひとつであろう。