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動き出すコミュニティ

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年6月1日

明治大学教授 小田切 徳美 (第2681号・平成21年6月1日)

いま、コミュニティが注目されている。筆者はその状況を「第2次コミュニティブーム」と表現したことがあるが(本欄2007年6月25日号)、いよいよその「ブーム」は、実践、政策の両面で本格化してい る。

しかし、同時に、「コミュニティ、コミュニティと言われても、なにから手をつけてよいのかわからない」と悩む地域リーダーや行政担当者も少なくない。その点で、今では活発な先発事例の始動期を振り返えると、それらにはいくつかの共通点を見ることができる。

たとえば、次の2点を指摘したい。第1に、地域住民が思いを共有する仕組みを意識的に作り上げている点である。特に、コミュニティ独自の広報紙の発行はほとんどの先発地域で手がけられている。そこでは、行事を知らせるだけではなく、地域の「人」をハイライトするように工夫されていることが多い。また、コミュニティの物的拠点としての集会場も重要である。行政・農協の空き施設を利用した事例も少なくないが、それにとどまらず、住民自身の力により施設の改修・増設などを行っている取り組みは、その設計や施工の過程自体が、思いを共有化するプロセスである。

第2は、地域コミュニティの始動期には、「安全・安心」をテーマとする活動に力を注いでいる点である。子どもの登下校時の見守り活動、カーブミラー清掃、そして水害への備えはその典型である。地域住民である限り、世代や職業を超えて、共通に必要とされているものであろう。このような「守り」の活動を土台として、その取り組みの厚さに積み上げる形でいろいろな「攻め」の活動が実践されている。こうしたコミュニティ活動の代表的な リーダーである広島県安芸高田市(旧高宮町)の辻駒健二さん(川根振興協議会会長)は次のように言う。「できることから、身の丈にあった活動を絶え間なくコツコツとやっていく。その中からできたこと、始めたことへの愛着、誇り、生きがいが少しずつ生まれてくる。私たちの活動はそれを繰り返してきたにすぎません」。

いよいよ「コミュニティ活動基本法案」をめぐる審議がスタートするという。そうした時だからこそ、この実践リーダーの重心の低く、落ち着いた言葉を噛みしめたい。