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国土形成計画

印刷用ページを表示する 掲載日:2005年11月7日

東京大学大学院 助教授 小田切 徳美 (第2539号・平成17年11月7日)

「全国総合開発計画」(全総)。町村関係者で、この計画の名前を知らない者はいないだろう。第5次まで作られたこの計画は、よくも悪くも戦後日本を代表する計画と言える。そこには、時々の「時代の潮流」が色濃く反映されているからである。

しかし、この全総が、新たに「国土形成計画」として、生まれ変わろうとしていることは意外と知られていない。2007年中頃までの閣議決定を目指す新計画では、従来の国主導の全総とは異なり、多様な主体の参画を前提として、全国計画と同時に広域地方計画が策定される。また、計画の名前から「開発」という言葉が落ちているように、行きすぎた開発主義の脱却を目ざしている。はじめて策定される広域地方計画とはどのようなものか。標榜されている多様な主体の参画はいかに実現されるのか。注目すべき点は少なくない。

だが、町村関係者は、そのような点のみならず、より大きな視点から策定過程とその内容を注視すべきように思われる。なぜならば、今回の計画が、都市と農村(地方)の「対立」が強まる傾向の中で、策定されつつあるからである。

現在は、「都市と農村の共生」が国政上の課題となっている一方で、都市・農村のそれぞれの役割と関連を考えることなく、農村における施策の「選択と集中」が論じられる場合が少なくない。また、三位一体改革による交付税改革論議でも、「地方の甘え」「農村優遇」という批判は繰り返し登場している。そして、政府内部でも、こうした力が除々に強まっているように筆者には感じられる。「時代の潮流」がそこにあるという読みがなされているのであろうか。

しかし、現行計画である5全総(グランドデザイン)が提起したように、農山漁村を「21世紀の新たな生活様式を可能とする国土のフロンティアとして位置づける」という、いわゆる「多自然居住地域論」は、農山漁村への都市からのIターンや若者ボランティアの動向をみると、その実現を射程内におさめつつあるように思われる。ここにこそ「時代の潮流」を見るべきだと筆者は思う。

いずれにしても、今必要な議論は、アプリオリな農村(地方)切り捨て論でも農村(地方)保護論でもない。国土という拡りの中で、都市と農村(地方)がどのような関係を結ぶべきかという古くて新しい課題である。町村関係者の積極的な発言を期待したい。