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「縁むすび係」の挑戦

印刷用ページを表示する 掲載日:2005年1月24日

東京大学大学院 助教授 小田切 徳美 (第2506号・平成17年1月24日)

新潟県山北町には、「縁むすび係」という部署がある。

5年前に新設された係であるが、その名の通り、地域の未婚者、特に男性の「縁むすび」をお手伝いすることを目的としていた。

この係ができて、最初に担当者が取り組んだのは、「出会いパーティー」の開催である。しかし、彼らは華やかなその場をセットしながらも、「町の男性が一番輝いているのは、パーティー会場ではなく地域で働いている姿ではないか」と思い至った。農業等に従事する男性の生き生きとした場を見てもらうためには、まず女性達に頻繁にこの地を訪ねてもらわなくてはいけない。また彼女達にもできれば農業に触れてもらいたい。

こうした思いを実践するために、翌年度からは、週末に町内で農業体験をする女性を、様々なメディアを通じて募集した。そして、その女性達のグループは、「週末百姓やってみ隊」と名付けられた。他方で、地域では農業体験を指導する「サポート隊」が組織され、未婚男性もそのなかに加わった。毎回の体験メニューは、稲作や野菜の栽培、特産品(アク笹巻き等)の農産加工等、実に豊富である。

当初の目的とは違う「農業体験交流促進」への、係業務の転換である。当事者も、それには決して自信があったわけではない。しかし、蓋を開けてみると、今年度で4期目となった「やってみ隊」には、新潟市や首都圏から、毎年10名以上の女性が集まっている。そして、農業体験を経た後は、やはりほとんどの女性が、町を「第二のふるさと」として、その後もたびたび訪ねるようになっている。

さらに、女性達のなかには、来訪するだけでは飽き足らず、町に移住する者が出てきている。また、移住者仲間を組織して、新たに農業経営に乗り出した女性もいる。山北町は、集落単位の「普段着のまちづくり」運動により元気な集落が多く、来訪者に対して開放的であることも、それを支えている。結局、こうした動きの中で、現在では5組もの夫婦が誕生している(他に1組が今春結婚予定)。

この「縁むすび係」が実践したのは、農村と都市の「縁むすび」だったと言えよう。しかし、結果的には、それが男女の「縁むすび」に結びついている。農村の魅力の中で、人々が輝いているからであろう。

「縁むすび係」の挑戦は、農村政策に大きな示唆を与えている。