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公務員試験

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年7月17日

東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子 (第3007号・平成29年7月17日)

六月一日に採用面接解禁となった大学生の就職活動も、少し落ち着きを見せてきた。今年は売り手市場といわれており、筆者が勤務する大学でも、すでに多くの学生が複数の企業から事実上の内定を得ている。人材確保に奮闘する企業と、卒業後の進路に悩む学生の間で、様々な駆け引きも行われているようだ。

一方、こうした学生たちとはやや異なる動きをするのが公務員志望の学生である。彼らの多くはひたすら公務員受験予備校等の講座を受講し、試験に備える。聞けば、これは大学生に限った話ではなく、高校卒業後に公務員受験の専門学校に通い、毎日試験勉強をして公務員になる若者も多いという。

複数の役所を受験し、公務員を目指す彼らに公務員志望の理由を聞くと、「クビにならない」「地元にある安定した職場の一つ」「親の勧め」といった回答をする学生が意外に多い。今頑張って受験勉強をすれば、安定した仕事に就ける。そう考えて公務員就職を目指すのである。だが、机上の勉強だけでよいのかと、こちらはいささか心配になる。

たしかに、自治体では、法令や条例、規則等に基づいて、正確に事務を担うことが求められる。こうした点で、法律の知識や文章理解、迅速な計算処理などの能力は重要だ。しかしながら、いまや自治体の役割は多岐にわたる。住民との意見調整や合意形成、地域づくりのための企画立案など、地域を運営するための戦略策定にかかわる仕事も増えている。わが町わが村の魅力ある資源について知り、地域住民とともに地域をつくる。そうした役割もいっそう期待されている。

では今日の公務員試験は、このように多様化・複雑化する地域課題に立ち向かうことのできる人材を選考できているだろうか。すでに、民間企業の採用試験は多様化している。集団討論はもちろんのこと、作業課題を通じて、学生たちのコミュニケーション能力や積極性など、多様な「社会人基礎力」を見極める工夫を行っている。むろん、自治体も面接等を行っているが、予備校では面接対策講座が開講され、受験者は準備を重ねている。

自治体の側にも戦略や対策が必要だろうと思っていたところ、ある役所では政策企画力を問う試験に加え、その後の懇親会で受験者の「社会人基礎力」を確認していると聞いた。

職員数の削減が進む中で、地域課題は増える一方であり、自治体職員の役割は重い。若年世代にとって、役場はいわば憧れの就職先である。必要な人材確保に向けて、募集や採用の方法にも、工夫が必要な時代である。