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地域の将来像をともに描く

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年10月24日

日本大学経済学部教授 沼尾 波子 (第2978号・平成28年10月24日)

今日、自治体には様々な計画策定が求められている。だが地域の将来について多くの住民とともに考え、そのイメージを共有しながら策定された計画は多くはない。

そんな風に考えていた矢先、岩手県紫波町が駅前の公共空間等の整備について平成21年に策定した「公民連携基本計画」をみて驚いた。

この計画書は「未来の紫波中央駅前におけるある一日」という、次のような「エッセイ」で始まる。「魅力的なブールバールのある街の朝は、一番乗りの店主が店を開けた瞬間から賑わいを見せる。 足早に行き交う出勤途中の人々の中に、役場庁舎に向かう職員の姿がある。高齢者は早朝講座のために情報交流プラザに集まって来ている。 統一されたデザインの二列の事業棟の間に位置するブールバールを紫波中央駅前大通りに向かって歩いて行くと、住宅地の住民が通勤電車に乗る前に、駅前でカプチーノを買って・・。」そして、 文章の横には、将来の駅前空間を描いたイラストが添えられている。

これは、開発理念を日常の一場面として伝える工夫だという。どんな駅前空間を創るのか。どんな風景が生まれ、どんな町に変わるのか。そのイメージをイラストとエッセイで分かりやすく、 読み手に伝えようとしたものだそうだ。

無論、この開発理念そのものも、町が一方的に策定したものではない。町では、住民アンケートや行政区長会議、各団体への説明会はもちろんのこと、各地区での座談会、さらに意見交換会を百回近く開催し、 加えて常設の意見交換場所まで設けた。そこで出てきた多種多様な意見を積み上げ、整理し、将来の駅前の姿を理念化した。そして、その景色を文章とイラストで描き出すことで、 空間計画の本質を多くの町民との間で共有しようとしたのである。

計画書をさらに紐解くと、目次が続き、あとは、駅前地区の様々な機能と役割が記されている。

この計画を軸に、専門家集団が、その具体化に向けて詳細な事業の構想と計画を練り上げ、議論を深める。こうして多くの人々の関わりのなかで創り出された駅前空間「オガール」は今、快適で心地よく、 利便性の高い空間として賑わいをみせている。

自分が関わった町に住み続けたいと思う人は多いはずだ。人口減少と財政難の時代、地域の将来構想や開発理念を地域ぐるみで考え、認識を共有することはますます重要になっている。 計画の策定や公表の仕方にも工夫が必要な時代となった。