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情報通信技術が地域経済にもたらすもの

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年1月13日

日本大学経済学部教授 沼尾 波子 (第2865号・平成26年1月13日)

各地でゲームセンターが閉店している。若者は携帯電話やスマートフォンでゲームを楽しむのだそうだ。その売上は大手携帯電話会社に流れ出る。ここでも地元にお金が落ちる仕組みが壊れている。

ネット通販も然りである。インターネットの普及により、農山漁村に居ながらでも、都市部の消費者を相手にビジネス拡大を図れるものだと思っていたら、実はそうでもないらしい。 ホームページを作成し、ウェブ上に店舗を構えても、お客は来ない。キーワード検索をして、店の情報が上位に表示されない限り、自分の店は大量情報の中に埋もれたままである。 口コミで店の評判が広がるまでにはかなりの時間がかかる。

どうすればネット通販で商品が売れるのか。ノウハウを持たない店は、アマゾンや楽天など大手通販サイトに頼ることとなる。ここでも、大手企業にお金が落ちる仕組みが形成されている。

人々の購買行動に関するビッグデータをもつ流通や小売の大手企業が、商品開発や価格決定に大きな力を持つ時代となった。これらの企業が持つ大量情報と販売ノウハウ自体がビジネスになっている。

「ご当地」の名前はブランド化されても、その「ご当地」で産み出された付加価値の多くが「ご当地」に還元されず、「東京」に行ってしまう。地元でせっかく良い商品を作って売り込もうとしても、 商品デザインやPR方法、販路を考えなくては、その魅力・良さが伝わらない。結局、大手企業のノウハウに依存することになるのかもしれない。

だがその一方で、ご当地で付加価値を創出し、地元にしっかりと所得を落としている地域もある。これらの地域では、商品の特性を消費者に伝える術をもち、 独自の販路をしっかり獲得することに努めている。六次産業化に留まらず、商品の魅力を伝えるデザイン、広報、そしてターゲットに向けた販路の構築を一体的に行っている。こうした地域では、 そのノウハウを獲得するための人脈とネットワークを持ち、情報通信技術を巧みに活用する術を持っている。

そんなふうに、地域の魅力と商品を上手にデザインしながら、地域にお金が落ちる仕組みを作っているところに、若者の移住定住が増えていると感じる。それは農山村の現場に、 情報通信技術や広告・宣伝関連の雇用が複合的に生まれており、野菜作りからホームページ制作まで、複合的な働き方ができる仕組みがあるからかもしれない。