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アルコール依存症は遺伝子が原因か?

印刷用ページを表示する 掲載日:2013年7月15日

筑波大学名誉教授 村上 和雄(第2847号・平成25年7月15日)

我が国の飲酒人口は6000万人を超えている。「酒は百薬の長」といわれるように、適正な飲酒の効用は医学的にも証明されている。ストレスの軽減はもとより、 総死亡率および心血管系疾患の死亡率を低下させる効用も明らかになっている。一方、その害は深刻である。アルコールの害は臓器に障害をもたらすにとどまらず、飲酒運転の悲惨な事故や、 家庭の崩壊などを引き起こす場合も少なくない。

アルコールという物質はなぜ依存症を生みやすいのか。

その1つの鍵となるアルコール依存症の遺伝子が見つかった。さらに、同じ家族や家系の中でも、アルコール依存や乱用の度合いが一段と高い人は、この遺伝子の数が多いことも分かった。 これにより、アルコール依存症になる素質は、遺伝的要因によって決まることがはっきりした。しかし、アルコール依存症の遺伝子を持つからと言って、その人が必ずしも依存症になるわけではない。 その人が酒を飲まなかったら、依存症にはならないからだ。

これは、至極当たり前のことだが、重要な意味をはらんでいる。つまり、飲める・飲めないは遺伝子が決めても、飲む・飲まないは自分が決めるということである。

言い換えれば、アルコールを絶対口にしないという意志が、生得の遺伝的要因に勝るということであり、人は遺伝子にのみ左右される存在ではないということだ。このことは、 私の研究分野である心の働きと遺伝子の相互関係にも通じるところがあるように思われる。

精神分析学の大家カール・G・ユングは、重いアルコール依存症の患者にいう。「あなたは医術や精神医療ではどうにもならない。スピリチュアルな体験をすれば、つまり真の転換を体験すれば、 回復可能かもしれない」と。

酒を断つような環境をつくり、依存者が助けあうような場を整え、そして、いま生かされていることに感謝できるような心になれば、 依存症にかかわるさまざまな遺伝子のスイッチをオフにすることが可能であると考えている。