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遺伝子は利他的である

印刷用ページを表示する 掲載日:2012年4月16日

筑波大学名誉教授 村上 和雄(第2797号・平成24年4月16日)

ヒトの身体では、細胞同士、臓器同士が見事に助け合っている。この助け合いを可能にするために、遺伝子にも利他的な働きをする情報が存在すると、私は1990年代の終わり頃から仮説として提案してきた。

一方、進化生物学者・長谷川真理子は、ヒトは本来、助け合う生き物として進化したと考えている。ヒトの身体が進化によって適応的に作られたように「こころ」も、また進化する。この考えは、コンピューターのシュミレーションを用いてゲームを行うことで検証された。

ゲームが1回で終わる場合、協力行動はなかなか生まれないが、同じ個体が繰り返しゲームを行うのであれば状況は変わってくる。

自分の利益のみを追求し、他者を裏切って食い物にしていく者は、最初は繁栄するが、その者同士でだまし合って自滅する。

一方、もらって、お返しをしてという集団は、繰り返しゲームを行うことで双方の利益がプラスになって、どんどん繁栄する。

つまり、長期的なつき合いが続く中では、協力行動が進化し得ることが、モデルを用いたシュミレーション研究から明らかにされた。

そして、ヒトほど他者に協調し、協力したり援助したりする動物は、他にはいない。では、ヒトに高次な利他行動が進化したのはどうしてだろう。それは、ヒトの「こころ」の存在だと長谷川真理子は主張する。

ヒトは進化の過程において、互いの状況や感情を、繊細、的確に推測する能力を獲得し、言語により意図を交わすことができるようになった。

ヒトに著しく発達した脳の働きは、長い集団生活の中で非常に強い社会性を生み、ヒトに独特な文化をつくり出した。

困っている人に「思わず」手を差し伸べる。そんな無意識になされる利他行動は、他者への共感や配慮(思いやり)、協調、助け合いが、ヒトの本能として進化したことを示している。