ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > 幼児は天才である

幼児は天才である

印刷用ページを表示する 掲載日:2010年7月5日

筑波大学名誉教授 村上 和雄 (第2725号・平成22年7月5日)

人生において幸せなことは、尊敬する師や目標となる人を持つことである。私の師の一人は、京都大学第16代総長を務められた平沢興先生である。

先生は大変優れた医学者であると同時に、すばらしい教育者であった。そして、脳科学者としての長年の経験から「人間は誰でもすべて、無限の可能性を秘めてこの世に生まれてくる。特に、幼児はすべて天才である」。これは、平沢先生の口癖であった。晩年、特に力を尽くしたことの一つに、家庭教育の普及運動があげられる。

先生は、早くから脳科学に基づく深い洞察によって、人間の基本的な性格は幼児の時期に形づくられるという考えから、幼児教育の意義、そして母親の役割の重要性を痛感していた。京都大学総長を退任した後、「全日本家庭教育研究会」初代総裁に就任した。その時、教育者としての余生を、この運動に捧げるというほどの意気込みだったという。

そして、「母よ/尊い母よ/日本の子らに美しくたくましい魂を/世界の子らに誇らしく清らかな心を/偉大な母よ」という言葉を揮毫している。

当時、教育における本質的な役割として、「母」の存在をうたいあげた人は誰もいなかった。平沢先生のこの呼びかけは、医者として、教育者として真剣に教育を考え続けてきた人の、祈りに近いものだった。

先生が集大成した教えは、①親は、まず、暮らしを誠実に ②子供には楽しい勉強を ③勉強は、良い習慣づくり ④習慣づくりは、人づくり ⑤人づくりは、人生づくり。

実にやさしい、簡単な言葉で平沢先生は、自らの信条を述べている。ここには、ただ、功利的に子供の成績の向上を期待するのではなく、何より親自身が、自分たちの生活の姿勢を見つめ、誠実に日常生活に向き合うことが大切であることを説いている。