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器の大きなアホのすすめ

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年3月9日

筑波大学名誉教授 村上 和雄 (第2672号・平成21年3月9日)

科学の世界はきわめて逆説的なところがあって、解明が進めば進むほど未解明な部分が増えてくる。一つの研究によって、あることがわかると、そのわかった部分以外のところはどうなっているのだろうか、という新しい 疑問や謎が生まれてくる。

つまり、わかればわかるほど「わからない」ということがわかってくる。私がかかわっている遺伝子の本体であるDNAについても同様で、DNAの仕組みや働きは、ものすごいスピードで解明が進んでいるが、それ以上に、わ からないことも増えてきている。

たとえば、人間の生命の全ての働きにかかわっているDNAのうち、どのDNAがどういう働きをしているかがわかっているのは、全体の10%程度にすぎない。あと90%は、どんな働きをしているのかよくわかっていない。 あるいは、どんな働きもしていないものと考えられて、ジャンクとさえ呼ばれている。

しかし私は、そのジャンクの部分に大きな意味や可能性が潜んでいると考えている。それは、遺伝子の未使用部分、未活動部分であって、何らかのきっかけによって働き出せば、私たち人間は現在有している能力よりも、 はるかにすごい力を発揮できるだろう。

いずれにせよ、未解明部分の大きさは、すなわち可能性の大きさであり、大きな能力が潜在しており、一見無用無意味に見えるものが、実は大きな価値を持っていると私は考えている。

利益を上げることが最大目的のビジネスにおいても、ときには損得抜きで「そんなバカなことはやめておけ」と、まわりから止められるような、超合理的で向こう見ずな大決断をしなくてはならない場合がある。そしてその決断が、その後の流れを大きく変えることが間々ある。

損得や欲得を離れた大決断は、なまじ利口で先のよく見える人にはできない。人からは「ちょっと頭のめぐりが悪いんじゃないか」と思われるような、愚直で度量の大きな人間にしかできないことだ。このことを一般的に 言い換えれば、器の大きなアホにこそ、大きな可能性が潜んでいるとも言えるだろう。