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生き残るのは「ゆずる心をもった人」

印刷用ページを表示する 掲載日:2004年4月12日

筑波大学名誉教授 村上 和雄 (第2476号・平成16年4月12日)

生物はつねに競争をしていて、環境に適合し、勝ち抜いたものだけが生き残り、あとは自然に濁汰されて絶えてしまい、突然変異によって、進化した生物が登場するという、ダーウインの進化論があります。この説にしたがえば、勝者しか人生を楽しめないことになります。

しかし、ダーウインの進化論とはまったく別の説が1960年に出てきています。それは「生物は優勝劣敗で進化してきたのではなく、互いに助け合いながら進化してきた」とする考え方に立つもので「共生的進化論」と呼ばれています。

ケニアの湖で発見された150万年前の類人猿の遺跡を調査した研究者によると、「互いに食べ物を分かち合い、助け合って暮らした痕跡が見つかった」というのです。

人類は、誕生の最初から、相互扶助と分かち合いをその本来の特性としてきたことを推定する考古学的な一つの証拠が提出されたのです。闘争心とか権力志向の心とかは、その後の長い人類史の過程で形づくられたものといえそうです。

遺伝子の働きを見ても、こちらの説のほうが自然の法則に合致しているように思えます。さらに、目を地球全体に転じると、地球そのものが進化し、生きている一つの大きな生命体ではないかともいえます。

こうした新しい考え方は、対立と抗争、分断と個別化を、進歩や進化の原動力と見なす考え方とは大きく異なっています。助け合い、譲り合い、分かち合いの「三つの合い」が、本当の進化の原動力だとする考え方なのです。

コンピューターに、「どんな人が最後に生き残るか」を推測させたところ、「力の強い人、自分のことを優先させて考える人、競争で勝ち抜いていく人」などという予想をものの見事に裏切って、「ゆずる心をもった人」という結果が出たという話もあります。