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ダライ・ラマ法王と科学者との対話

印刷用ページを表示する 掲載日:2004年1月26日

筑波大学名誉教授 村上 和雄 (第2466号・平成16年1月26日)

チベット仏教の最高指導者・ダライ・ラマ14世と科学者との対話が、昨年11月に東京で開催されました。科学者として、小柴昌俊 東京大学名誉教授と私が出席しました。私は初対面でしたが、法王の何人をも受け入れる広い心と、まるで子供のような好奇心を持つ人間性に大変魅力を感じました。

ダライ・ラマは、仏教と科学との対話には両方にメリットがあるといわれます。仏教徒は科学の発見を取り込むことにより、人間世界をより明確に理解できます。一方、科学者も仏教の心に関する深い知恵を知ることにより、認知科学、神経科学、心の科学の分野で役立つというのです。もし、科学の証明した事実が仏教の教えと矛盾するのなら、教えの方を変えるべきだと主張される柔軟で謙虚な姿勢には敬服しました。これは真理を求める真摯な姿です。

しかし、いまの科学で解明できないから真実ではないという考え方は、明確に否定されました。科学で分からないことは無数にあります。この態度は、真の科学者の態度と一致します。

万巻の書物に匹敵する遺伝情報を極微の空間に書き込み、それを正確に一刻、一秒の休みもなく解読し、働かせている大自然のサムシング・グレート(見えざる偉大な力)の凄さについて、私は語りました。サムシング・グレートについて、宗教者と科学者はアプローチや方法は違いますが、対話が可能であると思っています。

さらに、笑いが糖尿病患者の血糖値の上昇を抑えるという私共の最新の研究結果から、ポジティブな感情や敬虔な祈りでも、良い遺伝子のスイッチをオンにする可能性があることを披露しました。

この考え方は、心と身体、宗教的なものと科学的なものを遺伝子の言葉でつなぎます。21世紀には、科学と宗教はそれぞれの立場の違いを認識しながら、生命の尊さ、平和、環境問題の解決に関して、粘り強い対話が必要であると思っています。