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交流の価値ここにあり―群馬県川場村の進化―

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年5月23日

早稲田大学教授 宮口 侗廸 (第2960号・平成28年5月23日)

川場村は群馬県北部の、山すそに穏やかな田園風景が広がる農山村である。東京都世田谷区との関係は著名であり、「区民健康村相互協力協定」を締結してすでに35年になる。 世田谷区が多くの候補地から川場村を選んだ理由は、まさに手つかずの農山村の姿にあった。二つの大きな区民滞在施設には毎年多くの区民が訪れ、里山自然学校などで村の価値に触れる。 小学5年生は全員が2泊することになっており、昨年度は6千人余りが訪れた。連休前のひと日、旧知の宮内副村長を訪ね、その進化の過程を詳しく伺うことができた。

訪れる区民に村の価値をわかってもらうためには、販売施設の建設は自然の流れであった。1998年にオープンした「道の駅川場田園プラザ」は、いまや関東一円の道の駅で人気最上位に挙げられる。 スタート時点の年間50万人という目標が、その後評判を呼び、昨年度は180万人という嬉しい悲鳴を上げている。

この施設は通常の道の駅のイメージと異なり、文字通り田園の中の5haの広大な敷地に、物産センター、ビール工房・レストラン、そば処、麺屋、ミルク工房、ピザ工房、 ミート工房などがゆったりと向かい合い、山すそには子供の遊び場もある。当初から壮大な集客の場を目指したそうで、小さな村がこれだけのグランドデザインを描いたことには驚かざるを得ない。 まさに世田谷区との交流あってこそであった。川場村はこの建設の時点では過疎自治体であり、建設にかなりの過疎債を充当できたことも幸いした。

川場産コシヒカリは「雪ほたか」と名付けられ、食味コンクールの金賞常連である。さらに当初からの「川場ビール」に加え、「飲むヨーグルト」、「雪ほたかの飲む糀」など、 商品開発のチャレンジはとどまるところを知らない。さらに驚くなかれ、川場ビールのかなりの量が昨年からアメリカに輸出され、雪ほたかの輸出も決まっているそうだが、これには、 田園プラザの指定管理会社の代表の、国際ビジネス通の地元の経済人の手腕が大きく働いているという。

筆者はこれを、世田谷区との交流の中で地元の産品が普遍的な眼にさらされて洗練され、国際競争にも打って出る力をつけていったと理解したい。まさに交流の価値である。 2015年のミラノ万博では、エコキュイジーヌとして川場村の食が大きく紹介されているし、川場村は今年度から、東京農大と清水建設との連携で、森林資源の活用のために、 木材加工・木質バイオマス発電・温室農業を複合的に実現する「グリーンバリュープログラム」をスタートさせた。時代にふさわしい取組みに敬意を表し、更なる進化を期待してやまない。