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トルコへの期待

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年8月4日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2888号・平成26年8月4日)

トルコの軍艦エルトゥールル号の物語が映画化されることになり、話題を呼んでいる。明治23年、台風のため600人以上が海に投げ出され、 紀伊大島に流れ着いた69名が、島民の献身的な看護で生還し、日本政府によってトルコに送り届けられた。トルコではこの物語が教科書に載り、 語り継がれている。イラン・イラク戦争の折にテヘランの空港に取り残された日本人をトルコ航空が救出し、その際、 エルトゥールル号事件の恩返しという報道があって、あらためてこのことを知った人も多いと思われる。

今年の5月、そのトルコを初めて訪ねる機会を得た。最初に訪れた中部では樹木の乏しい山々が目立ったが、西に移動するにつれ緑豊かな小麦畑が増え、 トルコが、砂漠の広がる西アジアでは偉大な農業国であることを実感することができた。実際トルコは日本の2倍強の国土の5割近くが農地である。 食料自給率は100%に近く、農産物の輸出額は100億ドルを超える。経済全体も上向いているようで、今年の当初の成長率は4%を超えた。 随所で住宅団地の建設ラッシュを目にすることもできた。

トルコはイスラム教の国である。しかしお酒に関しては柔軟で、禁酒規制はない。ビールやワインはもちろん、ラクという強い蒸留酒の地酒も、 誰でも飲むことができる。これは、 20世紀まで存続したオスマントルコ帝国崩壊のあとにトルコ共和国を建国したケマル・パシャ(アタテュルク)がラクを愛したからともいわれるが、 彼の主導したある種の世俗主義が今も受け継がれ、トルコの貴重な特質になっていると筆者は思う。 実際さまざまな場面でトルコ人の柔軟さとしたたかさを実感した。

21世紀は民族対立の時代ともいわれ、様々な原理主義が対立をもたらしている。トルコという柔軟さを持つ大国が、 イスラム圏のヨーロッパとの接点にある意味は、今や極めて大きいのではないだろうか。トルコはNATOの加盟国であるが、EUにはまだ加入していない。 トルコの自動車のナンバープレートがEU諸国と同じ仕様なのに、EUのマークの部分が空白になっていることが、 トルコの立場を象徴しているように思えた。ちなみに地方都市では、日本人とわかると一緒に写真を撮ってほしいという若者グループにたびたび出会い、 日本への親近感を実感することができた。