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ヨーロッパの偉大さを改めて思う

印刷用ページを表示する 掲載日:2012年2月6日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2788号・平成24年2月6日)

ギリシャやイタリアなどの債務をめぐってヨーロッパが揺れている。EUが27か国に拡大し、うち17か国がユーロを通貨とする中で、その先行きを不安視する声も聞かれるようになった。しかし第2次大戦後の世界で、EECからEC、そしてEUに至る国を超えた共同体の実現は、国際関係における最も偉大な取組みであり、その価値はいくら讃えても讃え過ぎることはないと筆者は考えている。

昨秋、大学の授業免除の制度を活用して、10月から11月にかけてフランスとベネルクスを訪れる機会があった。特に後半の2週間は、各国の鉄道乗り放題のユーレイルパスを使用し、ゆっくりと多くの地域を見て回ることができた。地理学者としては久しぶりの長旅である。ヨーロッパにはしっかりした鉄道網が健在であり、そしてわが国と最も異なる点は、都市は都市らしく、農村は農村らしく保たれていることであろう。

ヨーロッパはもとよりすばらしい都市文化を育ててきたところである。小さな町にもカフェやレストランが集まっている広場があり、歩いて生活する人がまだまだ多い。しかし一方で鉄道の車窓からは、うねるような平野の、どこまでも続く美しい農村風景を眺めて飽きることがない。農地はほとんど荒れておらず、木立に囲まれた農家が点在する様は、印象派の絵画そのものである。

このように農村がしっかりと受け継がれている背景には、EEC結成時以来の共通農業政策の存在がある。当初6か国で結成されたEECは、域内の農産物の最低価格の保証を中心とする強力な農業保護政策を導入し、基本的にはEUになってもこれを継承している。そこには、農業は他の産業と異なる特別な存在であるという、強い認識がある。このような揺るぎない支えがあってこそ、意欲ある農家らしい農家が育つのである。

終わりに、訪れた都市の中では、オランダのアムステルダムで運河がストリートに代わる町の単位になっていること、そして人が住むボートハウスが3,000近くも運河に浮かんでいることを初めて知り、地域の多様性に感動する地理学者として大変に嬉しかったことを付記しておきたい。