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小さな島の心のブランドづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2008年9月22日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2654号・平成20年9月22日)

この8月、沖縄の伊是名村をおよそ20年ぶりに訪れる機会があった。過疎地域活性化の表彰候補としての視察である。沖縄本島の北西の海に浮かぶ14平方キロほどの伊是名島におよそ一八〇〇人が暮らす。50年前には五〇〇〇人を超える人口があった島である。

伊是名島と今帰仁村の運天港の間には、片道55分のフェリーが2往復運航している。運天港は美ら海水族館とは本部半島の反対側にある小港で、港は新しく整備されていたが、売店や喫茶などは、まだ募集中とのことであった。

伊是名島には標高一二〇メートルほどの山があり、平らな隆起さんご礁の島とは違い、かつては溜池をつくって水田耕作を行ってきた。そして20年前に訪れたときは、その耕地をサトウキビ畑に転換する大規模な土地改良事業のさ中であった。沖縄支援のために、各地で、少し前までこのような投資が大々的に行われてきたのである。

この島は、15世紀から19世紀まで続いた琉球王国の第二尚王朝の開祖、尚円王の出身地である。前田政義現村長は教育長時代に、尚円王を村づくりの中心に据えることによって、美しい自然がありながら観光的にはマイナーで、どちらかというと公共事業で食べてきた島からの脱皮を図ろうと考えた。勇壮な「尚円太鼓」の育成を手始めとして「歴史ロマン尚円王ブランド創出事業」を推進、その集大成として沖縄県の「一島一物語事業」を活用し、島の若者が国王になるまでの物語を村民劇に制作することを計画した。

専門家スタッフを招聘し、小学生を始め一〇〇人の出演で完成した村民劇「史劇尚円王~松金がゆく~」は村内の公演で大成功を収め、昨年5月には 浦添市の大きなホールの会館記念公演に招待され、1日3回三千人の集客を果たした。関係者はこの活動を振り返って、「これは子供たちの心の中にブラ ンドをつくる事業だ」と述べている。公共事業中心だった島が島人の誇りに目覚め、力を結集して外に発信する取組みは、計り知れない価値を派生させ るに違いない。ぜひ工夫して公演を続けていってもらいたいと思う。