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農への熱き思い

印刷用ページを表示する 掲載日:2007年8月6日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2610号・平成19年8月6日)

5月の終わりごろ、中国四国農政局の方から研究室に小包が届いた。心あたりがなく、不思議に思って開けてみると、入っていたのは何と9冊のマンガ本であった。題して「まんが農業ビジネス列伝」というシリーズで、中国・四国の9つの県から農にかかわるビジネスのサクセスストーリーを1つずつ拾い上げ、それぞれ50ページ余りのマンガに仕立てたものである。農政局の企画調整室の発案で、この3月に9冊揃って〈家の光協会〉から出版(市販)された。

四国では、いまや農業ビジネスの雄となった馬路村のユズ、そして上勝町の葉っぱビジネスを始め、内子町の販売施設フレッシュパークからり、讃岐うどんのための新品種〈さぬきの夢2000〉の開発が取り上げられた。そして中国では、岡山のピオーネ栽培、三次市の平田観光農園、山口市の秋川牧園、雲南市の木次乳業、そして鳥取の二十世紀ナシの歩みが、さまざまな苦労の末に成功を勝ち得ていくストーリーとして、ヴィヴィッドに描かれている。筆者が訪ねた地域も多く、いくつかの場面では涙を禁じ得なかった。

農業の持つ価値のすばらしさを子供たちにわかりやすく伝えたいという、担当者の熱き思いがこのシリーズをこの世に出した。そして苦労のプロセスを取材し、ストーリーを整理して作画にたずさわったのは、アニメやイラストの専門学校生や大学のサークルの若者たちである。このマンガが発刊された意義はもちろん大きい。しかしこの製作にかかわった多くの若者たちの口から、一途に農を極めようとする人の存在とその魅力が、必ずや多くの人に語られるのではなかろうか。さらに喜ばしいことだと思う。

担当者は、全国の都道府県でこのシリーズが続けられて47巻になれば、将来の日本農業のあり方に大きく貢献するのではないかと訴える。このような試みが各地で実現することを、筆者も大いに期待したい。