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頼もしい過疎地域の動き

印刷用ページを表示する 掲載日:2006年11月6日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2579号・平成18年11月6日)

この数年、過疎地域活性化の優良事例の表彰委員長を務めさせていただいており、そのための視察に今年も二ヵ所行かせてもらった。都市から遠くにあって、独自の取組みで活気をつくり出している地域に接することが、何よりも私自身の元気のもととなっている。

一つは、総務大臣賞に輝いた宮城県大崎市の旧鳴子町である。鳴子温泉はもともと名高い温泉町の一つであるが、ここのところ客足の低調さが否めない中で、鳴子ツーリズム研究会が結成された。温泉旅館と農家、さらには奥地集落の自然を組み合わせて、鳴子スタイルと呼ぶスローな日々の価値を世に問おうという取組みは、まさに時代の風である。

旅館の宿泊客や一般の参加者に、汗を流した後に温泉に浸かってもらう「田植え湯治」が評判を呼んでいるのを始め、どぶろくを味わってもらえる農家レストラン、小さな畑を耕す「湯治クラインガルテン」や十アールからの就農などが特区の申請によって認められた。鬼首(おにこうべ)という名の奥地の集落では小学生が原野にソバや花を植え、「やまが旬の市」という素朴な直販施設をつくるなど、新しい試みがどんどん派生している。まさにタテ割の垣根を取っ払った協働が生まれていることが頼もしい。

山口県の周南市(旧鹿野町)の、島根県境に近い大潮地区は過疎連盟会長賞を受けたが、そこではかつてテントの店が台風で吹き飛ばされたのにも屈せず、地元の人の手作業で店を再建し、朝市を続けてきた。その後行政の支援を受けて加工施設を持つ立派な施設ができ、地元産の大豆を使った「せせらぎ豆腐」が評判を呼び、交流部会の活動も始まった。特に自分たちで工夫した「豆乳ババロア」は絶品であった。鳴子に比べると小さい動きではあるが、地域の人たちが支える、かつオリジナルに富んだ活動はすばらしいと思う。

これらの地域はすでに合併して町から市になった。これからは過疎地域の定義も難しくなるであろう。しかしこの国で人がいきいきと暮らすしくみづくりが、合併によって後退してはならない。ここを克服することが、自治体そして国の使命であるとあらためて思う。