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愛媛の光

印刷用ページを表示する 掲載日:2006年7月24日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2569号・平成18年7月24日)

6月中旬の土曜日、愛媛県の宇和島市に向かった。愛媛の心ある地域のつわものたちは、1987年に〈えひめ地域づくり研究会議〉を結成し、内子町の内子座で旗揚げを行った。そして20年目の今年、県土縦断リレーシンポジウムが企画され、その1回目の会に呼んでいただいたのである。つわものたちに再会でき、楽しいひと日であった。

宇和島は松山市から南に遠く、独特の生活圏をつくって来た地域であるが、いまは企業の撤退などきびしい状況がある。市街地からさらに30分ぐらい走った半島部の遊子地区に近年脚光を浴びている段々畑があり、世話人の山田佳代さんにまずそこに案内してもらった。平地のない場所で漁業で暮らしてきた人々が、裏山の急斜面に石垣を積み上げてつくった段畑は、雨に煙っていても神々しかった。この地区出身の早稲田の女子学生が、この段畑への思いをインターネットで発信して世間を驚かせたが、彼女がその後愛媛新聞社に就職したことは頼もしい。最近は段畑祭りも開催され、段畑でつくられたジャガイモなどが交流の仲立ちをしているとのことであったが、本来漁業あっての畑なので、畑だけにこだわらず魚も活かしてほしいなと、ふと思った。

愛媛県は〈(財)えひめ地域政策研究センター〉という研究機関を持ち、ここには市町村からも元気な職員が出向して、さまざまな会議を支えて働いている。職員にとってはまたとない自己トレーニングの場であり、ここで成長した人が何人もいる。今回の会もこのセンターの関係者が多く参加し、盛り上げていた。世話人の森田浩二さんもその1人である。このセンターは「舞たうん」という月刊の小冊子を発行していて、何年も前に寄稿させてもらったが、高いレベルを堅持していることは驚きである。数日前に届いた7月号には、センターが今年の2月に開催したトークバトルの記録が載っていたが、その出演者は、馬路村の東谷望史さん、上勝町の横石知二さん、内子町の森本純一さん、そして双海町の若松進一さんという、誰知らぬもののない四国のつわものたちであった。この方々が開拓してきた地域づくりの光と20年という歳月にあらためて感動すると共に、それぞれの地域がこの光を受け継いで大合併の時代を克服して行って欲しいと、切に思った。